2020/07/30

【弁護士監修】固定残業代とは?違法な固定残業代のポイント7つと取り戻す方法

執筆者 編集部
残業代関連

「給料を固定残業代とコミでもらっている」という人は多いのではないでしょうか?
固定残業代は正しく運用されれば、企業と従業員の双方にとってメリットがあるものです。
しかし、近年ではブラック企業が人件費を違法に抑制するための手段として利用するケースも多くあります。
固定残業代についてしっかりと理解していないと、本来もらえるはずの残業代をもらい損ねることもあり得ます。
この記事では、違法な固定残業代の7つのポイント、残業代の計算方法、及びもらい損ねた残業代を取り戻す方法について解説します。

【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)

監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか

1. 固定残業代とは?

固定残業代とは、一定時間の残業を見越して残業代をあらかじめ固定で支払う制度です。
企業にとっては、従業員に支払う賃金が毎月一定となるために、賃金の把握がしやすくなるメリットがあります。
また、固定残業代は、指定された残業時間より短い時間で仕事を終わらせた場合にも同じ残業代が支払われることになります。
そのために従業員が「仕事を早く終わらせて固定残業代分の時間を浮かせよう」と思うことにつながり、従業員のモチベーションアップが期待できることもメリットです。
このように固定残業代は正しく運用されれば、会社と従業員の双方にとってメリットがあるものの、近年では多くのブラック企業が固定残業代を採用することとなっています。
固定残業代にすることで本来支払わなければならない残業代を浮かせようとするからです。
企業が固定残業代を取り入れるにあたっては、労働基準法や裁判所の判例などによりいくつもの制約が課されます。
どのような場合に固定残業代が違法となるのかをしっかりと理解しなければ、本来もらえるはずの残業代をみすみすもらい損ねることにもなりかねません。

2. 違法な固定残業代の6つのポイント

それでは最初に、違法な固定残業代の7つのポイントについてご紹介します。

2-1. 基本給と固定残業代がはっきりと区別されていない

固定残業代が法的に有効であるためには、基本給と固定残業代とがはっきりと区別されていることが必要です。
1時間あたりの残業代は、後で詳しくご説明するとおり、基本給を所定労働時間(契約で定められた労働時間)で割り、割増賃金をかけることにより求められます。
基本給がいくらかはっきりしていなければ、残業代を計算することもできないからです。
求人広告には、基本給と固定残業代とが区別されていない、下のような表現がよく見られます。
 「月給30万円(一部時間外手当を含む)」
求人広告だけであればともかく、実際の労働契約が同様の規定であれば、違法の可能性が高いといえます。

2-2. 固定残業の時間数を超過しても別途残業代が支払われない

固定残業代の場合には、もし指定されていた残業時間を超過して残業した場合には、超過した分の残業代は別途支払われなければなりません。
 「うちは固定残業だから超過しても残業代はでないよ」
 「固定残業だから、残業時間も記録する必要ないから」
などというケースがあれば、それは違法だといえるでしょう。
一方、残業時間が指定された時間を下回った場合には、固定残業代は減額されず、元の金額のまま支払われなければなりません。
固定残業代とは「その時間数に達するまでは固定」の意味だからです。
したがって、30時間の固定残業で、実際の残業時間が20時間や10時間、あるいはまったく残業しなかった場合にも、固定残業代は同じになります。

2-3. 雇用契約や就業規則に明示されていない

固定残業代を採用するには、雇用契約において従業員の個別の同意をとるか、就業規則によって従業員に対して周知することが必要です。
したがって、雇用契約や就業規則に固定残業の金額を明記しなければなりません。
 「雇用契約も就業規則もない」
 「雇用契約がなく、就業規則を見せてもらえない」
 「雇用契約や就業規則に基本給と固定残業代が分けて記載されていない」
などのケースでは、違法の可能性が高いでしょう。

2-4. 残業代に割増賃金がつけられていない

残業代は、後で詳しく解説するとおり「割増賃金」をつけなければなりません。
残業代の割増率は「1.25」です。
固定残業代に割増賃金が含まれていない場合には違法の可能性が高いといえます。

2-5. 残業代が最低賃金を下回っている

賃金には「最低賃金」が定められています。
最低賃金は都道府県により異なり、たとえば東京都の令和元年時点での最低賃金は「時給1,013円」です。
事業主は従業員に対して最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。
したがって、固定残業代を時給換算した場合に最低賃金を下回る場合には、違法であるといえるでしょう。

参考: 『地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省)』

2-6. 固定残業時間が45時間を上回っている

月あたりの残業時間は「原則として45時間まで」とされています。
したがって、固定残業の時間数が45時間を超える場合は違法の可能性があるいといえます。

3. 固定残業時間を超える残業代の計算方法

固定残業時間を超えて残業した場合の、残業代の計算方法を解説します。
 ・基本給 …25万円
 ・固定残業代 …5万8,590円(30時間分)
 ・ある月の実際の残業時間 …45時間
の場合について、超過して支払われるべき残業代を求めてみましょう。

残業時間の計算法は、
 1. 月平均所定労働時間を求める
 2. 残業代の時給を求める
 3. 実際の残業代を求める
の3段階となります。

3-1. 月平均所定労働時間を求める

残業代を計算するためには「残業代の時給」を求めなくてはなりません。
残業代の時給は、
 基本給 ÷ 月平均所定労働時間 × 1.25(割増率)
で計算されます。
ここで月平均所定労働時間とは「1ヶ月あたりの所定労働時間は平均して何時間か」を意味します。

完全週休2日制で、12月31日~1月3日までが年末年始休暇となる場合、年間の休日は「125日」となりますので一年間の所定労働日数は、
 365日 - 125日
で計算され「240日」となります。
一日の所定労働時間が「8時間」の場合なら、一年間の所定労働時間は、
 240日 × 8時間
で「1,920時間」。
これを12で割れば1ヶ月あたりの平均所定労働時間が求められますので、
 1,920時間 ÷ 12
で、月平均所定労働時間は「160時間」になります。

3-2. 残業代の時給を求める

残業代の時給は、前述したとおり、
 基本給 ÷ 月平均所定労働時間 × 1.25(割増率)
で求められます。基本給25万円、月平均所定労働時間160時間の場合には、この式は、
 25万円 ÷ 160時間 × 1.25
となり、残業代の時給は「1,953円」となります。

3-3. 実際の残業代を求める

ここまでくれば、実際の残業代を求めることができます。
45時間分の残業代は、
 1,953円(残業代の時給)× 45時間(残業時間)
で求めることができ「8万7,885円」です。
ここから、固定残業代として支払われる「5万8,590円」を引いたもの「2万9,295円」が超過した分の残業代として求められます。

4. 未払いの残業代を取り戻すために必要な証拠

未払いの残業代を取り戻すために必要な証拠を紹介します。

4-1. 雇用契約又は就業規則

まず必要なのは「雇用契約」「就業規則」などの給与に関する契約条件が書かれたものです。
就業規則は、従業員が「常時10人以上」いる会社では作成しなければならないことになっています。
また、従業員に公開されなければならないことも定められていますので、一般の会社であれば、いつでも見られるようになっているはずです。
しかし、ブラック企業の場合には、この就業規則を従業員に見せないようにしているケースもあります。
会社に言っても就業規則を見せてもらえない場合には、
 ・書面で公開を求める
 ・労働基準監督署に通報する
などの方法があります。

4-2. タイムカードなどの働いた時間がわかるもの

次に必要なのは、タイムカードなどの実際に働いた時間がわかるものです。
タイムカードがない場合でも、業務日誌などの記録も証拠になります。

4-3. 給与明細など

給与明細など、実際に支払われていた給与がいくらなのかについての書類も証拠として必要です。
給与明細は捨ててしまわず、かならず保存しておくようにすることが大切です。

5. 未払いの残業代を取り戻すための方法

未払いの残業代があることが判明した場合、会社に対して請求をしましょう。優良な会社であれば、労働者の請求に対してすぐに応じてくれるかもしれません。

5-1. 上司に相談してみる

最初にしてみるべきなのは、上司に相談することでしょう。
自分の残業時間がこれで、本来はこれだけの残業代がもらえるはずがこれだけしかもらっていない、と相談します。
一般的な会社であれば、この時点で残業代の支払いを検討するはずです。
しかし、相談に耳を貸さないブラック企業の場合には、さらなる方策が必要となってきます。

5-2. 内容証明郵便を送る

次に考えられるのは「内容証明郵便」を会社に送り残業代を請求することです。
内容証明郵便とは郵便局が、送られた手紙のコピーを保存し、誰が、誰に対して、いつ、どんな内容の手紙を送ったかを証明してくれることです。
残業代には2年の時効があります。(ただし、2020年4月1日以降に発生するものは3年です。)
時効を過ぎてしまえば、残業代を請求することはできなくなります。
しかし、内容証明郵便を送ることにより、時効の完成が半年間猶予されます。
また、後に労働審判などを起こす際には、内容証明郵便は「残業代を請求した」ことの証拠としても採用されます。
なお、内容証明郵便は弁護士の名前で送ってもらえば、より効果が高くなります。

5-3. 労働基準監督署に相談する

内容証明郵便を送っても会社が動かないようならば、労働基準監督署に相談する方法があります。
労働基準監督署とは、労働問題に関する警察署のようなものです。
残業代の不払いなどが発覚した場合には、労働基準監督署が「是正勧告」を出してくれます。

5-4. 労働審判を起こす

残業代を請求するためには労働審判を申し立てすることも方法の一つです。
労働審判とは裁判所で行われる手続きで、裁判官や労働問題の専門家が審判員となり、トラブルを調停してくれます。
個人でも、弁護士をつけずに審判を申し立てることができます。

6. まとめ

固定残業代を取り入れるにあたっては、企業はいくつもの制約を課せられています。
基本給と固定残業代を明確に区別するなど、定められた手続きを行っていない固定残業代は違法の可能性が高いです。
違法な固定残業代を取り戻すためには、まずは証拠が必要です。
特に、残業時間の記録については、しっかりと行っていきましょう。

正しい残業代を知るためには、基礎知識や給与形態別の計算方法を知っておく必要があります。また会社が残業代を支払わない理由や未払い残業代を会社に請求する方法も把握しておくことで、損をする可能性を下げることが可能です。実際に残業代の請求をするのであれば、回収実績の豊富な弁護士事務所に相談する方法もあることを覚えておきましょう。

ただし弁護士に依頼する場合、残業代請求の成功/不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が通るか分からない中で、弁護士に数十万円を最初に渡すのは抵抗がある方も多いかもしれません。

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