2020/06/23

【弁護士監修】みなし残業代の計算方法を残業時間のパターン別で解説|みなし残業に関するよくある質問への回答も公開

執筆者 編集部
残業代関連

勤めている会社がみなし残業代制(固定残業代制)を採用している場合、適切な残業代をもらえているか疑問に感じている方もいるのではないでしょうか。みなし残業代の正しい計算方法を知らないと、未払いの残業代が発生しているか判断できません。

そこでこの記事では、みなし残業代を正しく計算する方法をパターン別に解説するとともに、よくある質問の回答をご紹介します。未払い残業代があったときの対処の仕方を把握することが可能です。

【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)

監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか

【目次】

1. みなし残業代制(固定残業代制)の概要と法的に認められる条件について

パターン別にみなし残業代を計算する方法を解説する前に、みなし残業制とはどのような制度かについて解説します。みなし残業が法的に認められる条件を満たしていないと、みなし残業が無効になるかもしれません。のちに説明する計算方法があてはまらなくなるので、ここでみなし残業が法的に有効になる条件を4つご紹介します。

1-1. 「みなし残業代制」あらかじめ決まった残業代を含める給与体系

みなし労働とは「みなし労働時間制」を意味します。「事業場外労働のみなし労働時間制」と「裁量労働制」の2つがあり、法で定められた要件を満たす場合のみ採用できる制度です。一方、一般的にみなし残業といえば「固定残業代制」を指すことがほとんどで、この場合は給料に一定の残業代をあらかじめ含めて支払うことを意味します。

みなし残業代制は労働者と会社、双方にメリットがある制度です。労働者は規定の時間より残業時間が少なくても、固定の残業代を受け取れます。会社は煩雑な残業代の計算をしなくて済むため、経理などのコストを抑えることが可能です。

労働者にとってはみなし残業時間分の残業を強制されるケースがあります。会社にとっては、残業の多寡にかかわらず一定のコストが生じる点もデメリットといえるでしょう。

1-2. 条件:社員が書面で確認できること

雇用契約を結ぶ際に、みなし残業制(固定残業制)を口頭で伝えるだけでは効力がありません。法的に認められるには、社員と雇用契約で個別に合意するか、社員に就業規則や賃金規定で周知していることが条件です。

具体的には、みなし残業の規定をきちんと定め、就業規則や賃金規定、雇用契約書に記載します。就業規則や賃金規定に定める場合は、社員が確認したいときに、いつでも確認できる状態にしておかなければなりません。いつでも見られるようにしていなければ、みなし残業は認められない可能性が高くなります。

1-3. 条件:みなし残業代に該当する金額が明確であること

就業規則などの書面にみなし残業に関する規定があっても、「月給25万円(固定残業代を含む)」といった文言では法的に有効なみなし残業と認められません。上記の場合、25万円のうちいくらが通常の労働時間分の給料で、固定残業代がいくらなのか明確に分からないためです。

「月給25万円(うち月40時間分の固定残業代として5万円)」という規定ならはっきり区別できます。基本給と固定残業代の金額が明確に分かれていない場合、みなし残業代は無効となり、実際に残業をした時間分の残業代を会社に請求できるでしょう。

1-4. 条件:時給換算したみなし残業代が最低賃金を下回らないこと

法外残業代(時間外労働)の割増率は1.25倍です。東京都の2019年度の最低賃金は1,013円で、残業代の最低賃金は1,266円になります。

「月給25万円(うち月45時間分の固定残業代として5万円)」という規定で会社の所在地が東京都の場合を例に考えてみましょう。1時間あたりの残業代は約1,111円となり、最低賃金を下回ります。計算した結果、最低賃金を下回るような設定は違法であるため、会社は不足分を従業員に支払わなければなりません。

1-5. 条件:みなし残業時間が月45時間を大きく超えないこと

「月給30万円(うち月80時間分の固定残業代として10万円)」といった規定は、残業が違法となる可能性が高いといえます。法定労働時間の1日8時間、週40時間を超えて残業させる場合、労使間で定めた36協定と労働基準監督署への届出が必要であるところ、36協定を結んだ場合でも時間外労働は原則月45時間までとする法改正がなされました。

45時間を大幅に超える月80時間ものみなし残業は恒常的な超長時間労働を想定するものとして違法と判断されて、みなし残業自体が無効となり、残業時間に応じた残業代の請求ができるでしょう。

参考; 『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説-厚生労働省』

2. みなし残業代制の残業代計算方法

ここからは、給料に含まれるみなし残業代の金額が明確であることを前提に、残業代の計算方法を解説します。給料のうちいくらがみなし残業代かはっきり分からない場合は、みなし残業とは認められません。残業代の基本的な計算方法を理解しておきましょう。

2-1. 残業代=残業時間×基礎時給×割増率

残業代は、「残業代=残業時間×基礎時給×割増率」の式によって算出できます。残業時間とは、会社が就業規則などで決めている「1日〇時間働く」「週〇時間働く」といった所定労働時間を超える労働時間のことです。1日8時間、週40時間の法定労働時間が上限となります(一部例外を除く)。

法定の割増率は特別な場合(深夜・休日など)を除き1.25倍です。就業規則などに法定より高い割増率が定められていればそれを、低い場合は法定の割増率を適用します。

基礎時給は1時間あたりの基礎賃金のことです。給料総額から残業代や通勤手当、住宅手当などを差し引き、1か月の平均所定労働時間で割って算出します。詳しくは以下の記事で確認できるので、ぜひ参考にしてください。

参考; 『残業代の基礎になる時給の計算方法』

2-2. みなし残業代以外の残業代を算出してみよう

給料に含まれるみなし残業代などを差し引いて基礎賃金を割り出すことで、実際に受け取れる残業代と固定のみなし残業代のどちらが多いかを判断できます。本来受け取れる残業代のほうが多ければ、みなし残業代を差し引いた超過分を会社に請求しましょう。

以下で1か月の平均所定労働時間を164時間と仮定して、パターン別に実際に計算します。なおこちらで計算する月給例には、家族手当や通勤手当は含まれていません。

2-3. 月20時間の残業をした場合

月給30万円(そのうち固定残業代5万円、そのほか手当なし)の場合で仮定しましょう。

30万円-5万円=25万円
25万円÷164時間≒1,524円(基礎時給)
1,524円×20時間(月の残業時間)×1.25=3万8,100円

このケースでは本来受け取るべき残業代は3万8,100円で、固定残業代の5万円を下回っています。残業代の超過分はありません。労働者は少ない残業時間で得をしたといえます。

2-4. 月45時間の残業をした場合

月給30万円(そのうち固定残業代5万円、そのほか手当なし)で、月の残業時間が45時間だった場合の計算方法をご紹介します。

30万円-5万円=25万円
25万円÷164時間≒1,524円(基礎時給)
1,524円×45時間(月の残業時間)×1.25=8万5,725円

残業時間が45時間の場合、本来受け取るべき残業代は8万5,725円です。固定残業代5万円を上回っているので、8万5,725円-5万円=3万5,725円を会社に請求できます。

2-5. 月60時間の残業をした場合

月給30万円(そのうち固定残業代8万円、そのほか手当なし)で月60時間残業した場合も確認しましょう。

30万円-8万円=22万円
22万円÷164時間≒1,341円(基礎時給)
1,341円×60時間(月の残業時間)×1.25=10万575円

このケースでも、本来受け取るべき残業代が10万575円で固定の残業代を上回ります。10万575円-8万円=2万575円が請求の対象です。

2-6. 月80時間の残業をした場合

月給30万円(そのうち固定残業代8万円、そのほか手当なし)で月80時間残業し、勤め先が大企業と仮定して計算します。中小企業ではない大企業の場合、月60時間を超えた部分の割増率が1.5倍となることがあるためです(法定労働時間=平均所定労働時間と仮定)。

30万円-8万円=22万円
22万円÷164時間≒1,341円(基礎時給)
1,341円×60時間×1.25=10万575円
1,341円×20時間×1.5=4万230円
10万575円+4万230円=14万805円

固定残業代8万円との差額である6万805円が請求の対象です。中小企業の場合は1.5倍の割増率ではなく、80時間すべてに1.25倍が適用されます。

参考; 『法定割増賃金率の引上げ』

2-7. みなし残業代を超えた残業代は正当に請求できる

たとえ就業規則などに定められた固定の残業時間に満たなくても、本来受け取るべき残業代が固定残業代を上回っていれば、その差額を請求することが可能です。

たとえば月給30万円のうち固定残業代5万円を40時間分のみなし残業代として支給されており、実際の残業時間が30時間だったとします。基礎時給が1,524円として「1,524円×30時間×1.25=5万7,150円」の場合は、差額の7,150円を請求しましょう。請求することは、法で認められた労働者の正当な権利です。

3. みなし残業代の計算が不可能なときの対処法

給料に含まれるみなし残業代の金額が明確に分からない場合は残業代の計算自体ができません。このようなケースでは、会社がみなし残業を誤って運用したり、意図的に悪用したりしている可能性あるでしょう。計算が不可能な場合はどのように対処したらよいかをご説明します。

3-1. 残業未払いに詳しい弁護士に相談する

弁護士に相談すると、法律に則ったさまざまなアドバイスを受けられます。依頼することで、弁護士に会社との交渉や労働審判、裁判を任せることが可能です。間違いが起きやすい残業代の計算や、残業時間の証拠集めなども弁護士に任せれば安心です。未払い残業代請求に詳しい弁護士や、労働問題が得意な弁護士に依頼しましょう。

3-2. 労働基準監督署に相談する

会社の所在地を管轄する労働基準監督署に相談する方法もあります。労働基準監督署は労働基準法に則って会社などを監督・指導する行政機関です。違法なみなし残業は長時間労働や賃金の未払いにつながるケースが多いため、相談先の選択肢として有効でしょう。

悪質だと判断されれば、調査や指導、是正勧告という措置を講じてくれる場合もあります。しかし寄せられる相談件数に対して、労働基準監督官の数が不足しているのが現状です。緊急性がなかったり、違法性の確認が取れなかったりする場合は動いてもらえない可能性もあります。

4. 未払い相談にあるとよい情報や資料

未払いの残業代を会社に請求するためには、事実を証明する証拠が必要です。証拠が少なかったり、まったく用意できなかったりした場合は請求が難しいかもしれません。弁護士に相談、あるいは請求の依頼をする際に、どのような情報や資料を用意すればよいのかを解説します。

4-1. 労働時間がわかるもの

労働時間の記録には、タイムカード、出勤簿や労務管理ソフトのデータ、就業と退社の時刻を記載した業務日報などがあります。会社によっては仕事で使うパソコンの起動と終了あるいはログイン・ログアウトの時間を記録したり、社員証などでオフィスへの入退館記録を記録したりしている場合があり、それらも労働時間を証明するものです。

このような記録や資料が用意できない場合、残業時間中に会社のアドレスから送信した業務関連のメールとほかの情報を合わせるなどして労働時間を証明することもあります。

また、弁護士が監修し、裁判の証拠としても使える「ザンレコ」という無料アプリもあります。スマートフォンのGPS機能を利用して勤務時間を自動で記録するアプリです。GPSは客観的な証拠なので、未払いの残業代を請求する強力な証拠となります。

参考; 『ザンレコ』

4-2. 雇用契約書や就業規則など

雇用契約書や就業規則、賃金規定などみなし残業に関する規定が記載されている資料は未払い残業代請求に必要です。これらの書類があれば始業と就業の時刻、所定の労働時間、給料に含まれる固定の残業代などが分かります。

会社によっては、就業規則などを従業員が見られる会社のサーバーに保存している場合もあるでしょう。該当する箇所のキャプチャ画像や写真でも判読できれば問題ありません。

人事や総務が管理している場合は、写しをもらう方法もおすすめです。みなし残業が規定された就業規則などは、従業員がいつでも見られるようにしておくことが法で定められています。

4-3. タイムカード打刻後に残業をした場合

タイムカードを打刻した後に残業した場合、会社から送った業務メールや上司からの残業を指示する書類やメールが証拠となります。業務日報やオフィスの入退館記録、上述の「ザンレコ」などでも残業を証明できるでしょう。

5. みなし残業代制のよくある質問

みなし残業代制を採用する会社に勤めている方から、よく聞かれる代表的な質問と回答をまとめました。これらを理解することでトラブルを未然に防げるだけではなく、違法な状態かどうか判断しやすくなります。残業代を請求するか迷っている方が勇気を出して一歩踏み出す手助けにもなるでしょう。

5-1. みなし残業代に満たない残業代は給与から差し引かれても仕方がない?

みなし残業代に相当する残業時間が月30時間と定められ、その月の実際の残業時間が20時間だった場合に、給料から10時間分の残業代を差し引くようなケースです。

会社がみなし残業を規定している以上、実際の残業時間が少なくても会社は固定の残業代を支給する義務があります。このようなケースに遭遇し、会社に違法性を指摘しても改善が見られなければ、すぐに弁護士や労働基準監督署に相談しましょう。

5-2. みなし残業代に満たなかった残業時間は翌月に累積されても仕方がない?

月30時間のみなし残業時間に対し実際の残業時間が20時間だったときに、10時間分を翌月以降に繰り越して累積し、翌月に40時間をみなし残業時間にするといったケースも違法になります。

みなし残業制は、固定の残業代、残業時間ともに月ごとに変動するようなものではなく、会社の都合で変えてよいものでもありません。この場合も、弁護士や労働基準監督署に相談することをおすすめします。

5-3. 休日出勤の残業代もみなし残業代に含まれるのか?

休日出勤は、その休日が法定休日かどうかで扱いが変わります。法定休日とは、労働基準法で定められた1週間に1日の休日のことです。週休1日の人はその日、週休2日の人は就業規則で定められた日を休日とします。定めがない場合は1週間(日~土)の後の方の休日が法定休日です。

法定休日の労働時間はすべてが残業時間として扱われ、割増率が1.35倍になります。法定休日でない休日の労働時間は、通常の労働時間と同じです。いずれにせよ、すべての残業代を計算した金額がみなし残業代を上回っていれば超過分を請求できます。

5-4. 深夜残業の場合もみなし残業代に含まれるのか?

深夜残業は、22時~5時の間に残業することを指します。通常の残業における割増率は1.25倍ですが、法外残業の深夜残業の場合は1.5倍の割増率です。

みなし残業に規定されている残業時間内だったとしても、通常の残業代と割増分を考慮した深夜残業代の合計が規定の固定残業代を上回ったら、会社は超過分を支給する義務があります。深夜残業や休日出勤がみなし残業に含まれるかどうかは、単に残業時間だけではなく正確な残業代を計算して初めて判断できるということです。

5-5. 未払いの残業代を請求すると働きにくくなるのではないか?

未払いの残業代を請求した人に対し、会社や個人が嫌がらせ行為をすることは違法です。しかしパワハラやいじめ、配置換え、降格など不利益を被る可能性もないとはいい切れません。このような心配から未払い残業代の請求を躊躇してしまう場合は、労働問題が得意な弁護士に依頼することをおすすめします。

会社との示談や労働審判で請求が認められた場合、秘密保持契約を同時に結ぶことがほとんどです。万が一嫌がらせ行為があったときは、その対応も弁護士に任せられます。

6. まとめ

未払い残業代は受け取る権利があります。会社が話し合いに応じない場合は、弁護士や労働基準監督署に相談しましょう。残業代の計算は間違えるリスクもあるので、弁護士に依頼するのが安心です。その後の請求に関する対応や、万が一残業代請求によって職場でトラブルが起きたときも任せられます。

ただし弁護士に依頼する場合、残業代請求の成功/不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が通るか分からない中で、弁護士に数十万円を最初に渡すのは抵抗がある方も多いかもしれません。

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