2020/06/22
【弁護士監修】あなたの残業代は平均より上ですか?下ですか?20代を悩ますブラックな残業代にある背景と対策について
執筆者 編集部給与明細を見たときに、残業代が少ないと感じたことがある方もいるのではないでしょうか。もしかすると、残業代が正しい計算方法のもとで支払われていないかもしれません。
そこでこの記事では、業種別の平均残業代や、自分で残業代を計算する方法をご紹介します。未払いの残業代があった場合に、会社に請求する方法まで知れる内容です。残業代の請求は労働者の権利なので、未払い分はきちんと取り戻しましょう。
【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)
監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか
【目次】
1. 業種別でみる平均残業代
業種によって1か月の残業代に大きく開きがあります。一般労働者(正社員)の残業代が高い業種でランキング化すると以下のとおりです。
1位:電気・ガス業 5万4,187円
2位:運輸業、郵便業 5万1,279円
3位:製造業 3万5,881円
4位:情報通信業 3万4,086円
5位:学術研究等 2万9,555円
6位:鉱業、採石業等 2万8,828円
7位:建設業 2万8,218円
8位:金融業、保険業 2万6,821円
9位:その他のサービス業 2万4,217円
10位:飲食サービス業等 2万3,774円
電気・ガス業界は、2020年の全面自由化に向けて、各企業とも競争力の強化に努めています。その結果、ほかの業種に比べて残業代が高くなっているようです。製造業や情報通信業などは労働力が慢性的に不足している業界のため、足りない労働力を補うために残業が常態化している可能性があります。
パート労働者の残業代が高い業種は以下のとおりです。時間給での労働者の多い製造業で残業代が多い傾向になっています。
1位:製造業 5,838円
2位:その他のサービス業 4,300円
3位:飲食サービス業 2,866円
4位:卸売業、小売業 2,462円
5位:医療、福祉 2,286円
6位:教育、学習支援業 1,195円
2. なぜ20代社員の平均残業時間は多くなってしまうのか?
働き方改革によって、各年代とも残業時間は減少傾向です。業界問わず20代社員の平均残業時間も、ほかの年代と同じく減少傾向にあります。しかしほかの年代に比べて、20代は残業時間が多くなりがちです。ここでは、なぜ20代社員の平均残業時間が多くなってしまうのかを解説します。
2-1. 基本的な給与水準が低い
20代はほかの年代に比べて、基本的には総支給額や手取り額は少ないのが現状です。そのため基本給だけで生活費を十分に賄えないことが考えられます。学費を奨学金でカバーしていた場合、就職と同時に返済がスタートする方もいるでしょう。生活費や毎月の支払いに必要な額を稼ぐために、残業をしなければならない状況にいるかもしれません。
2-2. 1人前になるための修行時期として扱われる
社会では、20代の社員は半人前として扱われることが多い傾向にあります。「残業=修行」という考え方が根付いている会社では、1人前になるために残業をすることが美徳とされていることも考えられるでしょう。
半人前として扱われている20代の社員は、残業という努力を求められるケースがあります。その結果ほかの年代の社員に比べると、20代は残業時間が多くなりがちです。
2-3. 残業を惜しまない同僚がいる
同僚が定時後も仕事を続けている場合、自分だけ先に退社するのは気が引けるという方もいるでしょう。特に残業が当たり前になっている職場の場合、定時に退社することをためらってしまう方が多いようです。特に仕事がなくても付き合い残業をする結果になるため、残業時間が伸びます。
2-4. 上司に申し出にくい
内閣府が行なった「ワーク・ライフ・バランスに関する意識調査」によると、上司は長時間残業をしている人物に対して「頑張っている」「責任感が強い」などポジティブなイメージをもっていると回答しています。定時に退社する正当な理由があっても、評価によって昇進に響くことを恐れ、残業せざるを得ない空気があるといえるでしょう。
2-5. 独身を理由に残業が強いられる
既婚者が家庭の事情で遅刻早退したり、休んだりした場合、その穴埋めを独身の20代社員が行う場合があるでしょう。夫や妻、子どもがいないことを理由に残業を強いられることもあります。しかし独身であるからといって、会社は既婚者のフォローを強制できません。理由がある場合は、はっきりと断りましょう。
3. 自分の残業代は平均より多い?少ない?
残業代がきちんと支払われているか把握することは大切です。残業代が多い場合は、残業時間が多すぎたり、基本給が安すぎたりなどの要因が考えられます。一方で残業を多くしたのにもかかわらず、残業代として支給された額が少ないと感じた場合は注意が必要です。このような場合、残業代が正しく計算されていない可能性があります。
固定残業代制を採用している会社の場合、みなし残業分を超えた残業代は別途支払わなければなりません。みなし残業について誤った認識をもっている場合、会社が正しい計算方法で残業代を算出していないことも考えられます。残業代を払わない会社の傾向を後述するので、勤め先にあてはまるものがないか確認してみてください。
4. あなたの会社は大丈夫?残業代を払わない会社の傾向とは
残業時間に対して残業代が少ないと感じた場合、残業代が正しく支払われているかを調べましょう。残業代を払わない会社には、「タイムカードがなく曖昧な勤怠管理」や「やり残しの仕事を自宅に持ち帰らせる」などいくつかの傾向があります。残業代を払わない会社の傾向を解説するので、勤め先に該当するものがある場合は注意が必要です。
4-1. タイムカードがなく曖昧な勤怠管理
接客業や製造業などの就業時間が決まっていても時間どおりに終わらない可能性がある業種や、さまざまな勤務形態の方が働く業種は、タイムカードがなく勤怠管理が曖昧なケースが多いといえます。慢性的に長時間残業を強いられている方もいるかもしれません。長時間残業は、過労死の危険性が高まるだけではなく心のバランスも崩してしまいます。
4-2. やり残しの仕事を自宅に持ち帰らせる
会社からの指示で自宅に仕事を持ち帰って行った際には、時間外労働に該当し残業代が発生する可能性があります。しかし個人の判断で上司が認識していない残業は、時間外労働に該当しないでしょう。自主的に持ち帰り残業をさせる雰囲気の職場にいる場合、人件費を抑えたいという会社の思惑があるといえます。
4-3. 「サービス残業は当たり前」の空気が漂っている
飲食やアパレル業界などアルバイトを多く雇用している業界の場合、アルバイトの稼働時間が増えてしまうと、その分人件費が膨らみます。サービス残業が横行している会社の場合、社員にサービス残業をさせることで人件費を抑えようと考えているといえるでしょう。
4-4. 就業規則が確認できない
常時10名以上の労働者がいる会社で就業規則がない場合は違法です。就業規則があっても従業員が確認できないのなら、周知義務に反していることになります。本来守るべき法律を守っていない会社であるため、従業員との間で賃金や休暇に関してのトラブルが発生するでしょう。
就業規則は社員がいつでも確認できなければなりません。就業規則を社員に公開していない会社は、悪質といえます。
4-5. 給与に固定残業代がいくら含まれているのか分からない
会社は固定残業代制で決めた残業時間を超えた分に関しては、残業代を支払う必要があります。しかし固定残業代が支払われている場合、どれだけ残業しても支払われないと誤認している方もいるでしょう。固定残業代の内訳を提示せず、曖昧な状態のまま残業をさせる会社も存在します。
4-6. 36協定が締結されていない
36協定は正式には、「時間外・休日労働に関する協定届」といいます。36協定は会社と労働者の間で結ぶものです。法定時間を超えた労働や休日労働をさせる際には、あらかじめ書面で協定を結ばなければなりません。
36協定が締結されていない会社や、不当に締結されているケースは違法性が高く、長時間労働や賃金の未払いなど従業員との間でトラブルになる危険性が高いでしょう。
5. 残業代にまつわるブラックな事例
個人で会社に対して、未払い残業代を支払うように要求するのは難しいこともあります。そのような場合は、最終的に裁判を起こして会社に支払いを要求することが可能です。実際に未払い残業代の支払いを会社に求め、裁判を起こした事例をご紹介します。
5-1. 残業代の未払い分請求に勝訴した銀行員
Y銀行の元従業員の男性が銀行に対して残業代の未払い分を請求し、勝訴した事例です。具体的には始業時刻前の準備作業や朝礼だけではなく、昼の休憩時間や終業後の勤務は時間外勤務に該当するとし、未払い分を支払うように請求しました。
請求に対して裁判所は、始業時刻前の準備作業や終業後の勤務は常態化しており、これらの作業を行う時間は使用者の黙示の指示による労働に該当すると判断したものです。
Y銀行の元従業員が就業時間前に出勤することが常になっていたため、裁判所は勤務した記録の有無問わず、8時15分までには勤務していたと見なしました。その結果、銀行に対して該当する時間外割増賃金を支払うよう命じています。
5-2. 法定労働時間の超過分を請求した派遣労働者
人材派遣会社Yの派遣労働者Xが法的労働時間の超過分を請求し、最高裁が棄却した高裁に差し戻した事例です。基本給が月額41万円、月間総労働時間が180時間を超えた場合に残業代を支払う雇用契約を結んでいました。そのため月間総労働時間が180時間超えない月は、会社から法定労働時間の超過分の残業代の支払いはありません。
そこでXは、残業代が未払いだとし会社に対して残業代を請求しました。高裁ではXに対して自ら請求権を放棄していると指摘しています。しかし最高裁では、放棄していないと判断して人材派遣会社Yに対して割増賃金を支払う必要があるという判決を出しました。いくらXに支払うかを再度審理するよう高裁に差し戻しています。
6. 支給されるべき残業代を調べてみよう
残業代は、残業時間×1時間あたりの基礎賃金×割増率で計算できます。残業代を計算するために、まずは基礎賃金を計算しましょう。
基礎賃金は、基本給をベースとして割り出します。通勤手当や家族手当などの労働基準法で定められた一部の手当やボーナスの金額は含めず、役職手当や地域手当などは基礎賃金に含んで計算します。ここで計算の例を確認してみましょう。
・月給:30万円
・基本給:25万円
・家族手当:1万円
・役職手当:3万円
・通勤手当:1万円
・計算式:30万円-1万円(家族手当)-1万円(通勤手当)=28万円(基礎賃金)
6-1. 残業代は基礎賃金をもとに計算される
残業代は、残業時間×1時間あたりの基礎賃金×割増率で計算できます。残業代を計算するために、まずは基礎賃金を計算しましょう。
6-2. 基礎賃金をもとに「基礎時給」を算出する
月給制の場合、月の基礎賃金を1か月の所定労働時間で割って計算します。月によって1か月の所定労働時間が異なるため、計算は単純ではありません。1か月の所定労働時間は、1年間の所定労働時間を求めてから計算します。月給制の基礎時給の計算方法は以下のとおりです。
・就業規則上の労働時間×年間勤務日数=年間労働時間
・年間労働時間÷12か月=1か月の平均労働時間
・基礎賃金÷1か月の平均労働時間=基礎時給
6-2-1. 時給制の場合
固定給だけが残業代を請求できるわけではありません。時給制で勤務している方も請求する権利があります。時給制の場合は、基礎賃金に役職手当なども含んで計算します。以下に例を出して解説します。
・時給:1,200円
・役職手当:300円
・基礎賃金:1,500円
6-2-2. 日給制の場合
日給制は1日の勤務時間が何時間の契約であるかがポイントです。日給制の基礎賃金の計算方法をご紹介します。
・所定労働時間:6時間
・1日あたりの基礎賃金:1万円
・計算式:1万円÷6時間=1,666円
6-2-3. 週給制の場合
週休制は、基礎賃金を1週間の所定労働時間で割ります。1週間の所定労働時間が週によって異なるときは、4週間の平均を求めましょう。平均を求めることによって、1週間の所定労働時間が分かります。
6-2-4. 年俸制の場合
この記事を読んでいる方のなかには、月給制や日給制ではなく年俸制で雇用契約を結んでいる方もいるでしょう。年俸制の基礎賃金の計算時には、1週間や1か月という単位は使用せず、1年単位で計算します。具体例は以下のとおりです。
・年俸:400万円
・1日8時間勤務
・年間勤務日数:240日
・所定労働時間(1年間):8時間×240日=1,920時間
・基礎賃金:400万円÷1,920時間=2,083円
6-2-5. 歩合給制の場合
歩合給制は、仕事の成果に応じて変化するのが特徴です。仕事ができる方ほどメリットがある契約といえます。歩合給制は所定労働時間という概念がありません。基礎賃金を計算する際には、総労働時間を使用します。以下に詳細を解説するので、参考にしながら計算してみてください。
・歩合給:30万円
・総労働時間(月):190時間
・基礎賃金:30万円÷190時間=1,578円
6-3. 残業代を給与に含む固定残業代の考え方
会社によっては、あらかじめ残業代を支払う制度を採用している場合があります。基本給と固定残業代が明確になっていない場合は、法律上は固定残業代を支払ったことになりません。
違法にならないためには、固定残業代と基本給を分けて周知する必要があります。これは就業規則だけではなく、求人をする際にもあてはまることです。固定残業代制で会社が正当に残業をさせるには、「〇万円分の残業代含む」などと明記しなければなりません。固定残業代を超過した分は、残業代を請求する権利があります。
固定残業代は基礎賃金に含まれないことを覚えておきましょう。基礎賃金を計算するときには、就業規則や給与明細などで固定残業代がいくらなのか事前に確認する必要があります。
7. 自分の残業代について「おかしい……」と感じたら
残業代がきちんと支払われていない場合、会社に対して未払い分の残業代を請求できます。将来的に請求する場合に備えて、就業規則や雇用契約書を確認したり、労働時間を記録したりすることは重要です。ここでは、会社に対して未払い分の残業代を請求するときに備えて準備しておきたいことを解説します。
7-1. 就業規則や雇用契約書を確認する
残業代の請求をする場合、労働時間や給与が分かる資料が必要です。ほとんどの就業規則や雇用契約書には、始業・終業時刻や所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間に関する事項や賃金の計算方法や支払いの方法などの事項が記載されています。
就業規則を確認したい場合は、上司や総務人事担当者に相談しましょう。雇用契約書は採用時に会社から渡されることが多いため、紛失しないよう大切に保管します。
7-2. 給与明細書を確認・管理しておく
実際に支給された給与の額や内訳が分かる資料として、給与明細書が必要です。給与明細書には、一般的に下記の内容が記載されています。
・基本給
・残業代
・手当
・社会保険料
・雇用保険料
・所得税
・住民税
・その会社独自の控除
給与明細書は自分で残業代を計算するときにも必要です。会社がいつどれだけ支払ったかが明確に分かる資料なので、大切に保管しなければなりません。紙ではなくメールで給与明細が送られてくる場合は、そのメールが証拠になります。
7-3. 実際に労働した時間が分かる資料を管理しておく
実際に労働した時間が分かる資料は、残業代請求時に役立ちます。資料は会社と交渉する際だけではなく、弁護士に依頼するときも必要です。
具体的には、タイムカード、出勤簿、業務日報などが証拠になります。手元に残しておけない場合は、写真を撮ったりコピーをしておいたりすることがよい方法です。
資料がない場合は、定時後に仕事をしていた証明ができる資料を準備します。たとえば上司から残業を指示されたときの書類やメール、勤務時間外の業務に関するメールなどです。残業代が未払いの可能性がある場合は、これらの資料をすぐに提出できるように管理しておきましょう。
8. 未払いの残業代請求には時効がある
未払いの残業代は過去2年まで遡って請求できます。そのため2年を過ぎると時効となり請求できません。もっとも、労働基準法の改正により2020年4月1日以降に発生する残業代については過去3年まで遡って請求できます。
また、下記の方法で時効の完成を止められます。
・内容証明書などを送って残業代を請求する
6か月は時効の完成が猶予されますが、あくまでも暫定的なものです。6か月の間に労働審判や訴訟をすることにより、時効が更新(リセット)されます。
・会社に対して労働審判の申し立てや民事訴訟の提起をする
これにより時効を更新することが可能です。もしくは、会社が残業代を支払っていない事実を認めた場合も時効が更新されます。
9. まとめ
残業代が正しく支払われていない場合は、請求する権利があります。まずは自分で残業代を計算し、正しい金額が支払われているか確認してみましょう。未払い分の残業代がある可能性が高い場合は、会社に請求するために必要な書類を準備して弁護士に相談することをおすすめします。
ただし弁護士に依頼する場合、残業代請求の成功/不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が通るか分からない中で、弁護士に数十万円を最初に渡すのは抵抗がある方も多いかもしれません。
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