2020/06/22

【弁護士監修】残業代請求の時効が2年→3年→5年へ!?民法改正における労働者の対応策

執筆者 編集部
残業代関連

「未払いの残業代があるのはわかったけれど、いつまでさかのぼって請求できるのか?」と疑問や不安を抱いている方も多いのではないでしょうか。

残業代をさかのぼって請求できる期間は「消滅時効」という法律で定められています。この記事では、残業代に関する請求権の消滅時効、未払い残業代を請求する手順について解説します。過去の未払いの残業代を諦めるなんてことにならないよう、残業代請求の時効期間や請求手続きをしっかり理解しましょう。

【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)

監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか

 

1. 残業代の時効の現状について


「残業請求権の時効期間は何年なのか」、「どのように計算するのか」などは法律により定められています。しかし法律の解釈には若干複雑な部分もあり、誤解しやすいので気をつけなければなりません。ここでは残業代請求権に関する「消滅時効」の基本的なルールを確認します。

1-1. 残業代の時効は2年だった

改正前の労働基準法では、残業代請求権の消滅時効期間は2年を適用していました(労働基準法第115条)。つまり過去2年までさかのぼって残業代を請求できるということです。

この点、債権の消滅時効に関する一般的なルールは民法で定められ、改正前の民法では、債権の時効期間は10年とされていましたが、労働の対価に係る債権については「短期消滅時効」を適用し、1年という短い時効期間に設定されていました。

しかし、たった1年では労働者を保護するためには十分な期間とは言えないでしょう。法律上は問題なくても、さまざまな準備や手続きをしているうちに期限が迫ってしまいます。そこで改正前の労働基準法では残業代を含む労働賃金については時効期間を2年と定めていたのです。

1-2. 残業代の時効の起算点を計算する方法

残業代請求権の時効期間の起算点は「給料日の翌日」です。民法では消滅時効の起算点は「権利を行使することができる時」と定めています(民法第166条第1項)。残業代の場合、残業代を含めた賃金が支給される日、つまり給料日がこれに該当します。

ただし、民法の期間計算に関するルールでは、権利を行使できる初日は時効期間に算入しないという決まりがあるので(民法第140条)、厳密には時効期間の起算点は「給料日の翌日」となります。

2. 2020年の民法改正によって変わる残業代の時効について


2020年4月1日に改正民法が施行されます。債権法も大きく変わり、「短期消滅時効」が廃止され、債権の消滅時効期間は「5年」に統一されます。それにともない、労働基準法における残業代の時効に関するルールの改正が検討されることになりました。民法改正により変わる時効期間のルールについて詳しく確認しましょう。

2-1. 民法改正によって債権の時効は5年に変更

上述のとおり、改正前の民法では一般的な債権の時効期間を10年とする一方で、労働の対価に係る債権については別途1年という短い時効期間が設定されていました。

民法改正により、賃金を含むさまざまな債権に対する短期消滅時効の制度を撤廃して、すべ ての債権について5年という時効期間が適用されることになりました。改正民法では、残業代を含む賃金債権も同様の扱いで、残業代請求権の時効期間も5年に変わることになります。

2-2. 改正前の労働基準法では残業代の時効が短い

一方、改正前の労働基準法では、残業代を含む賃金に関する債権の時効期間を2年としていました。従前は、残業代請求権の時効期間を、民法上では短期消滅時効を適用し1年、労働基準法では労働者の不利益にならないようにと時効期間を2年に延長という特則を設けていたのです。

しかし、2020年4月1日からの民法改正によりすべての債権の時効期間は5年に統一されます。その結果、労働基準法が規定する時効期間の方が民法の規定よりも短くなるという逆転現象が発生してしまうのです。これは合理性に乏しいでしょう。

2-3. 労働基準法の改正によって当面は残業代の時効を3年に延長

労働基準法は本来労働者を保護するための法律です。それが民法の規定よりも労働者に不利な内容となるのは歪んだ状況といえるでしょう。この矛盾は回避・是正しなければなりません。

そこで、労働政策審議会では、労働基準法の残業代を含む賃金の時効期間を5年に延長するとの見直しが審議されてきました。審議の結果、2020年4月1日から施行される改正労働基準法では、残業代を含む賃金に関する債権の時効期間を「当分の間、3年間とする」ことになりました。

これは「経過措置」と呼ばれ、いきなりルールを大きく変えてしまうことによる影響を抑えようと、段階的に新ルールへと移行させることを意図しています。

2020年4月1日に2年からいったん3年に延長し、さらに一定の期間が経過した後に改めて検討すると先送りにされているようです。

3. 時効の延長がもたらす変化は?

残業代の時効期間の延長は労働者にとっては有利ですが、使用者にとっては請求された未払い残業代をさかのぼって支払わなければならないケースが増えます。それにより、経営上のリスクはより高まるでしょう。

できるだけ労働者が残業しないよう、使用者側は労務リスクを軽減する対策を講じる必要性に迫られます。ワークシェアリングや業務の効率化などが考えられるでしょう 。

4. 残業代の時効の完成を阻止する方法


労働者が使用者に対して残業代を請求する場合、時効期間が経過する前に何らかの法的 措置を取る必要があります。ここでは、時効の完成を阻止する方法について解説します。

4-1. 内容証明郵便を送って時効を一時停止する

時効を一時停止する方法として最も一般的なのが、内容証明郵便を使用者へ送付し、残業代の支払いを請求する方法です。

内容証明郵便とは一定の書式に則った文書を作成して、郵便局がその文書が誰から誰宛てに送付されたかを証明する制度です。基本的には弁護士などに作成・送付を依頼して行い ます。内容証明郵便により、債権の時効の完成が6か月間猶予されます。

4-2. 残業代の催告を行うことで6ヶ月間の時効の一時停止が可能

内容証明郵便による残業代の請求も含め、裁判の手続きによらずに債権の請求を行うことを「催告」と言います。

催告を行うことにより、債権の時効の完成が6ヶ月間猶予されます。ただし、これはあくまで一時的な措置だということを覚えておきましょう。確定的に時効を更新(リセット)するためには裁判上の請求などのより強力な法的措置をとるか、または使用者に対して債務を認めさせる(債務の承認)ことが必要です。

4-3. 裁判や談合によって時効を完全にリセットする

時効を確定的に更新(リセット)する方法は、大きく分けて2つあります。ひとつは裁判上の請求を行うことです。使用者に対して訴訟を提起して残業代の支払いを請求することにより、残業代請求権の時効を更新できます。

もうひとつは、使用者に対して残業代支払い債務の存在を認めさせることです。使用者との話し合いの場を持ち、使用者側から債務の存在を認める旨の書面を取り付けることができれば、それをもって残業代請求権の時効を更新できます。

5. 時効を迎える前に未払い残業代を請求する6つの手順

未払いの残業代があると判明した場合、時効期間が経過しないうちに使用者に対して請求を行うことが必要です。

とくに長期間にわたって未払い期間が継続している場合には、時効が近づいている可能性もあるので、迅速かつ確実に手続きを進めましょう。ここではどのような手順で残業代の請求を行うかを見ましょう。

5-1. 未払い残業代の算出

まずは未払い残業代がどのくらいの金額なのかを把握しましょう。残業代は以下の計算式で求めます。

(法定時間内残業の時間数×1時間当たりの賃金)+(法定時間外労働の時間数×1時間当たりの賃金×1.25)

法定時間内残業とは、就業規則上の所定労働時間を超えるものの、1日8時間、1週間で合計40時間の範囲で労働をした場合の所定労働時間を超える部分に係る労働を言います。法定時間内残業に対しては、通常の賃金と同一の賃金が支払われます。

法定時間外労働とは、就業規則上の所定労働時間を超え、1日8時間、1週間で合計40時間を超える労働をした場合の8時間を超える部分に係る労働を言います。法定時間外労働に対しては、通常の賃金に25%を上乗せ(1.25倍)した割増賃金が支払われます。

具体的な例で考えてみましょう。

(例)1時間当たりの賃金が2,000円、就業規則上の所定労働時間が1日7時間の労働者が、毎日2時間の残業を月曜日から金曜日まで行った場合

法定時間内残業にあたる残業代=2,000円×5時間=10,000円

法定時間外労働にあたる残業代=2,000円×5時間×1.25=12,500円

合計 22,500円

5-2. 在職中は勤め先との話し合いから始める

次に、勤め先に対する請求の検討を開始します。在職中の場合はいきなり法的な措置をとる ことは職場での立場などもあり難しいかもしれません。

まずは話し合いによる解決を試みましょう。しかし、勤め先がすんなりと残業代の支払いに応じてくれることは稀で、結局話し合いは不調に終わるケースが多いでしょう。当事者同士で解決できるならベストですが、お互いの譲歩が難しいのは否めません。

5-3. 退職後は内容証明郵便を送る

勤め先を退職した場合は人間関係のしがらみもなくなるので、法的な措置を検討してもよいでしょう。まずは内容証明郵便を勤め先に送付し、残業代の時効を一時停止します。とくに時効完成間近の場合は、できる限り早く内容証明郵便を送付することが重要です。

内容証明郵便は自分でも作成できますが、厳格な書式が決まっているため、初めて作成する方にとっては難しいかもしれません。基本的には弁護士に依頼するほうがよいでしょう。送付の手続きは郵便局で行います。

5-4. 労働基準監督署に残業代未払いの相談を行う

また、労働基準監督署に相談するのもひとつの方法です。未払い残業代があるという証拠をしっかり集めて相談しましょう。労働者側としてとるべき手段についてアドバイスして くれたり、場合によっては会社に対して未払い残業代を支払うよう指導を検討してくれたりします。

労働基準監督署へ相談したことが勤め先へ発覚してしまうことを心配する方もいるでしょう。労働基準監督署へは匿名でも相談できます。具体的な法的措置をとる前に一度相談 してみるとよいでしょう。

参考:『全国労働基準監督署の所在案内』

5-5. 労働審判によって未払い残業代の請求を行う

話し合いや内容証明郵便の送付などさまざまな手法を尽くしても残業代が支払われない場合には、具体的な法的手続きに移行します。

労働紛争を解決するための制度に「労働審判」があります。労働審判は弁護士に依頼して、裁判所に対して申立てを行うことで開始します。

労働審判では、労働審判員が当事者の間に入り、双方の言い分を聞きながら解決案を提示します。最終的には審判が言い渡され、双方に異議がなければその審判の内容が強制力を持ち ます。どちらかが異議を述べた場合には訴訟手続きへと移行します。労働審判は原則3回の審理期日をもって終結するので、迅速に紛争を解決できることが特徴です。

5-6. 裁判所で未払い残業代の請求を行う

上述の手続きのいずれによっても残業代が支払われない場合、最終手段として訴訟による解決を目指すほかないでしょう。

訴訟では、訴状や準備書面などの書類作成、証拠の収集、弁論などを通じて自らの主張を裁判所に認めてもらえるように法廷活動を行う必要があります。

これらを個人で行うのは非常にハードルが高く、時間的・精神的な負担も大きいでしょう。また準備に漏れや不備が生じる可能性も高く、勝訴は難しくなります。したがって、訴訟を 提起する場合は弁護士に相談するのが一番でしょう。

6. まとめ


2020年4月からの労働基準法の改正で、残業代債権の消滅時効期間は2年から3年に延長します。時効期間が長くなるとは言え、残業代請求を行うには莫大な時間と労力を必要とするでしょう。また時効期間を念頭に置いてスピーディに行動しなければなりません。弁護士に相談をすれば、その時々でやるべきことについて適切なアドバイスを受けられるでしょう。

ただし弁護士に依頼する場合、残業代請求の成功/不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が通るか分からない中で、弁護士に数十万円を最初に渡すのは抵抗がある方も多いかもしれません。

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