2020/06/22

【弁護士監修】みなし残業(固定残業代)の違法性がすぐに理解できる5つのチェックリストと判例3選

執筆者 編集部
残業代関連

毎月受け取っている給料について、「あれだけ残業したのに、残業代があまりついていない」と感じたことがある方もいるのではないでしょうか。会社は「みなし残業(固定残業代)」という方法を使って、残業代の支払いを節約しようとしている場合があります。「みなし残業(固定残業代)」の中には違法なものも含まれている場合があるので注意が必要です。

そこでこの記事では、「みなし残業(固定残業代)」について詳しくご説明します。労働者としての権利を守れる正しい知識を理解することが可能です。

【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)

監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか

 

1. みなし残業とは何か


「みなし残業」とは、一般的に以下の3つの意義を有します。
1つ目はいわゆる「固定残業代」です。固定給の中に定額の残業代があらかじめ含まれている給与体系を指します。

2つ目は「事業場外労働みなし労働時間制」と呼ばれるものです。会社の外で仕事をする社員について、労働時間の把握が困難であることから、あらかじめ所定の時間労働をしたものとみなす給与体系を指します。

3つ目は「裁量労働みなし労働時間制」です。裁量労働を行う社員について、通常の労働時間に関する規則を適用することなく、あらかじめ所定の時間労働をしたものとみなします。

この記事では3つのうちの「固定残業代」についてご説明するので、ぜひ知識を深めてください。

2. みなし残業(固定残業代)が違法になった裁判例3選


みなし残業(固定残業代)の定めが認められるためには、労働基準法で定められた要件をクリアしていることが前提条件です。

みなし残業(固定残業代)の定めが違法とされた3つの裁判例を以下でご紹介します。これらに類似した多くのケースでは、みなし残業(固定残業代)の定めが違法と判断されるでしょう。

2-1. アクティリンク事件

不動産販売仲介業者であるY社においてテレアポ業務に従事していたXが、Y社に対して未払い残業代の支払いを請求した事件です。

Y社は、Xに対して「営業手当」という名目で月間30時間分の労働に相当する金銭を交付していたことをもって、残業代は支払い済みである旨を主張しました。

しかし裁判所は、名目の異なる手当を固定残業代として認めるための要件として、以下2点を提示します。

1.実質的に見てその手当が時間外労働の対価としての性格を有していること

2.支給時に時間外労働の時間数と残業手当の額が明示され、超過した場合には別途精算する合意または取り扱いが存在すること

この件での営業手当はあくまでも営業活動の経費・インセンティブとして支給されていたものです。1、2いずれもみたさないことを理由に、営業手当を固定残業代に該当するものとは認めず、Y社に対して追加での残業代の支払いを命じました。

2-2. ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件

Yホテルにてフレンチレストランの料理人として勤務していたXが、基本賃金及び残業代の未払い分の支払いを請求した事件です。

残業代の未払いの争点に関してYホテル側は、YホテルからXに対して支給されていた「職務手当」は95時間分の固定残業代として支払ったものであるため、残業代はすでに支払い済みであると主張しました。

主張に対して裁判所は、45時間分のみを固定残業代として認め、それを超える時間分の残業代の追加支払いをYホテルに対して命じています。理由は以下の3点です。

1.固定残業の時間数が明示されていないこと

2.Yホテルは固定残業時間と実際の残業時間との間の差額精算を行っていないこと

3.36協定において定められた上限時間の45時間を超える固定残業時間の設定は公序良俗に反し無効であること

2-3. マーケティングインフォメーションコミュニティ事件

ガソリンスタンドの運営や自動車賃貸業を営むY社の従業員であったXが、Y社に対して未払い残業代の支払いを請求した事件です。

Y社はXに対して支給していた「営業手当」が固定残業代としての性質を有しているとし、残業代はすでに支払い済みであると主張しました。これに対して裁判所はXの主張をほぼ全面的に認め、Y社に対して未払い残業代の支払いを命じています。

裁判所はY社の主張どおり「営業手当」の全額が時間外労働の対価であったと仮定した場合に、約100時間の時間外労働に対する割増賃金の額に相当する金額であることを認定しました。しかし36協定における上限の45時間を大幅に超える100時間もの時間外労働の対価として、「営業手当」が支払われていたとは認められないとした判例です。

3. みなし残業(固定残業代)の違法性が一目で分かる5つのチェック項目

みなし残業(固定残業代)が違法であるとされる例も存在しますが、どのような基準で「違法なみなし残業(固定残業代)である」と判断するのか理解しておくことが重要です。みなし残業(固定残業代)の違法性を判断する5つのチェック項目をご紹介します。

3-1. 残業時間がみなし残業時間を大幅に上回るが支払われていない

あらかじめ設定したみなし残業時間と比べた際に、実際の残業時間のほうが大きく上回っている場合には、未払い残業代が発生している可能性が高いといえるでしょう。

みなし残業時間と実際の残業時間の間に差がある場合には、差額分の残業代を追加で支払って精算する必要があります。しかし中にはこのような精算を行っていない会社もあるかもしれません。

きちんと精算を行っていない場合は、違法の疑いが強いでしょう。みなし残業時間を超えて労働をした方は、きちんと対価が支払われているか確認することが重要です。

3-2. みなし残業代が基本給に含まれている

みなし残業代(固定残業代)については、基本給とは分けて表示するよう厚生労働省が基準を示しています。

みなし残業代(固定残業代)が基本給に含まれているケースできちんと表示をしていないと、厚生労働省の基準に反することが分かるでしょう。また、みなし残業代(固定残業代)がどのくらいあるのか、対応する固定残業時間が何時間であるのかが不明になってしまいます。みなし残業時間を超えた場合に割増賃金を追加で支払うことについても表示しなければなりません。

3-3. 雇用契約や就業規則にみなし残業に関する規定が記されていない

労働基準法により使用者は労働契約の締結にあたって、労働者に対して賃金や労働時間、そのほかの労働条件を明示しなければならないものとされています(労働基準法第15条第1項)。

みなし残業(固定残業代)についても労働条件に関する内容です。雇用契約や就業規則に内容が記されていないにもかかわらず、みなし残業(固定残業代)に基づく賃金の支払いがなされている状況は違法といえます。

雇用契約や就業規則はあまり詳しく見たことがないという方もいるかもしれませんが、この機会に確認しておきましょう。

3-4. 月45時間以上のみなし残業

使用者は「36協定」を締結することにより、労働者に対して残業を命じることが可能です。1か月あたりの残業時間の上限は45時間とされています(労働基準法第36条第4項)。この45時間の上限を超える残業を前提とするようなみなし残業(固定残業代)の定めは、公序良俗に反して違法・無効とされる可能性があります。

45時間を超えることを前提としたみなし残業(固定残業代)の定めの有効性が争点となるトラブルは実際に起きているため、労働者だけではなく使用者も慎重に判断しなければならない問題です。

3-5. みなし残業を除いた基本給が異様に少額

みなし残業(固定残業代)を除いた基本給が異様に少額な場合、違法の疑いが強いと判断できるでしょう。

労働者の賃金には最低賃金法という法律により1時間あたりの下限が定められています。基本給が少額な場合には、1時間あたりに引くと最低賃金を下回る可能性があり、その場合は最低賃金法違反により違法となります。

実質的に残業代の支払いを回避する目的で基本給を低く設定していると、最低賃金法違反として、罰則や行政処分を科される可能性があることも認識しておきましょう。

4. 違法なみなし残業(固定残業代)に対処する方法


給与明細などを確認して、違法なみなし残業(固定残業代)が行われていることを発見した場合、どのように対処すればよいか知りたい方もいるのではないでしょうか。労働者としての権利を守るため、正しい知識を身につけておくことが重要です。以下で3つの対処する方法について解説します。

4-1. 勤め先と長時間労働について話し合う

上司に長時間労働が恒常化している実態について訴え、改善を求めるのがひとつの方法です。上司は部下の労働状況を十分に把握していない可能性があります。その場合、実態を知れば改善の手助けをしてくれるかもしれません。

賃金の支払いについても、固定残業時間の超過時間分については追加で支払うよう、上層部との交渉を依頼できることも考えられます。

4-2. みなし残業の超過労働はきっぱりと断る

固定残業時間を超えて働いた場合に超過分についての賃金が支払われないのであれば、違法なみなし残業(固定残業代)であるため、労働者は違法な残業を断る権利があります。

会社での人間関係を気にして残業を断りづらい、という場合があるかもしれませんが、労働条件を改善するために毅然とした態度を取ることもときには必要です。超過労働はきっぱり断ることも正当な自己防衛策といえます。

4-3. 労働基準監督署に相談してみるのも方法のひとつ

「会社と直接交渉するのは大変」「人間関係が崩れるかもしれず難しい」という場合には、労働基準監督署に相談することもひとつの方法です。

労働基準監督署では電話相談も受け付けており、匿名での通報も可能なので、会社に対してあなたが通報したという事実が伝わることもありません。上司と直接交渉するよりは間接的な方法になりますが、検討する価値はあるでしょう。

しかし、労働基準監督署への相談は文字どおり相談で終わる可能性もあります。すべての相談案件で調査、指導が行われるわけではないことを覚えておきましょう。

5. 違法なみなし残業(固定残業代)は残業代を請求できる?具体的な手順を解説


違法なみなし残業(固定残業代)が行われていることが分かった場合、会社に対して未払い残業代の請求をしましょう。請求を円滑に進められるように、どのような流れで未払い残業代を請求する準備を進めればよいか解説します。

5-1. 未払い残業代を正確に把握する

未払い残業代がいくらであるのかを正確に把握しましょう。本来支払われるべき残業代と、固定残業代の差額を、計算式を用いて計算することになります。

本来支払われるべき残業代を把握するには、勤務記録(タイムカード)や仕事でやりとりしたメールなどを確認するとよいでしょう。残業代は以下の計算式により求められます。

法定時間内残業の時間数×1時間あたりの賃金+法定時間外労働の時間数×1時間あたりの賃金×1.25

たとえば、1時間あたりの賃金が2,000円、就業規則上の所定労働時間が1日7時間の労働者が、毎日3時間の残業を月曜日から金曜日まで行った場合で計算してみます。

法定時間内残業についての残業代=2,000円×5時間=1万円

法定時間外労働についての残業代=2,000円×10時間×1.25=2万5,000円

合計3万5,000円

固定残業代の金額については、雇用契約や就業規則の内容を確認します。その際、違法性のチェックポイントについても確認しておくと安心です。

5-2. 残業が証明できる証拠を集める

会社に対して未払い残業代を請求する場合、最終的には裁判所が関与する手続き(訴訟、労働審判など)の中で解決されることもあるでしょう。その際に残業を証明する証拠の提出が求められます。少しでも有利になる解決につなげるため、残業の証拠をしっかり集めておくことが重要です。

残業の証拠としては、勤務記録(タイムカード)・業務日誌・シフト表・メール・給与明細・PCのログイン履歴などさまざまなものが考えられます。思いつく限りのものを収集、保存しておきましょう。

5-3. みなし残業の未払金回収は弁護士に任せるのがおすすめ

未払い残業代の正確な把握や、残業の証拠収集、会社との交渉や訴訟の提起などは本人だけで行う場合は手間がかかります。未払い残業代の請求に向けてやるべきことについて自分で調べながら準備しようすると、周到な準備ができず最終的に不利な解決となるかもしれません。

未払い残業代を請求する際には、専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士は未払い残業代請求の実務に精通しているので、やるべきことについて適切な助言が得られるだけでなく、問題解決をスムーズに進められるでしょう。

6. 弁護士に依頼するとなったら

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弁護士へ依頼したくても費用面で不安があるという方は、『アテラ 残業代』のサービスを利用することを検討してみてください。

7. まとめ


違法なみなし残業(固定残業代)により未払いの残業代があるのではないかと思いあたった場合、残業の証拠を確実に収集することが重要です。違法な未払い残業の被害者となった場合には、労働者としての権利を守るため、弁護士のサポートを得つつ会社に対して自らの権利を正しく主張しましょう。

ただし弁護士に依頼する場合、残業代請求の成功/不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が通るか分からない中で、弁護士に数十万円を最初に渡すのは抵抗がある方も多いかもしれません。

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残業代請求をするときのリスクは、最初の着手金を支払うことで敗訴したときに収支がマイナスになってしまうことですが、『アテラ 残業代』を利用することでそのリスクがなくなります。

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