2020/03/09

【弁護士監修】時間外労働とは?正しい方法で残業代を計算しよう

執筆者 編集部
残業代関連

早野弁護士監修のもと、残業に関する正しい情報や残業の多い職場で働いている皆さんに知っておいていただきたい「役立つ知識」をまとめました。これまでの働き方や今後の働き方に向き合ううえで、ぜひ役立てていただければと思います。

働き方改革によって残業(時間外労働)に対する制限が厳しくなりましたが、「毎日忙しくて、なかなか残業がなくならない」といった方も多いでしょう。中には、適切な残業代が支払われていない方や不当に安い賃金でサービス残業をしている方もいるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、残業の正しい知識や残業代の計算方法について解説します。記事を読めば、自分の残業代がしっかり支払われているかどうかがわかります。ぜひチェックしてみてください。

【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)

監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか

1. どこからが時間外労働?


まずは時間外労働の定義を説明します。毎日残業に追われるような忙しい会社に勤めているならば、自分が行っている残業(時間外労働)について正しく知りましょう。時間外労働を理解するうえで欠かせない「法定労働時間」に関してもわかりやすく解説します。

1-1. 時間外労働とは

一般的に「残業」と呼ばれている時間外労働ですが、定義を正しく理解していない方もいるのではないでしょうか。時間外労働とは、原則として法定労働時間を超えて働くことをいいます。法定労働時間については次の項目でくわしく解説します。

時間外労働は労働者にとって負担が大きく、会社が行わせる場合の条件や行わせた場合に支払わなければならない手当が労働基準法によって定められています。

1-2. 法定労働時間とは

時間外労働とは「法定労働時間」を超えた労働のことです。では、法定労働時間とは一体何なのでしょうか。

法定労働時間とは、法で定めた労働時間を指します。労働基準法では、労働時間は原則として1日に8時間、週に40時間までと制限を設けています。つまり、この時間を超えて働いた場合、すべて時間外労働となります。

また、会社で定めた終業時間を超えて働いたとしても、1日の労働時間が8時間(週に40時間)を超えていなければ、法的な意味での時間外労働にはなりません。この考え方は、時間外労働を正しく知るうえでとても重要になります。

1-3. 所定労働時間は社内で設定される

会社で定めた労働時間(就業時間)のことを、法定労働時間に対して「所定労働時間」といいます。所定労働時間は、法定労働時間の範囲内であれば会社が自由に設定できます。

所定労働時間と法定労働時間を混同している方もいるようですが、本来別のものを指します。所定労働時間と法定労働時間の違いは、残業代の計算をする際に重要となるので覚えておきましょう。

2. 時間外労働をさせるための条件


労働者にとって負担が大きい時間外労働には、行わせるために必要な条件や一定の手当が労働基準法で定められています。具体的にいうと、会社と従業員は36協定を結ぶ必要があります。ここでは、会社が時間外労働をさせるための条件についてくわしく見ていきましょう。

2-1. 時間外労働には36協定が必要

時間外労働をさせるには「36協定(サブロク協定)」という協定を結ぶ必要があります。36協定とは会社と社員の間で結ぶ協定で、結ばずに残業させることは労働基準法違反です。違反すると、会社には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

会社にとっては知らなかったでは済まされない非常に重要な協定なので、就業規則や雇用契約書等を見て36協定の有無を確認しましょう。

2-2. 36協定で定められた時間外労働の上限

36協定を結んでいても、無限に時間外労働をさせてよいわけではありません。協定には時間外労働の上限時間が設定されており、違反すると先ほどと同じ罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となります。

時間外労働の上限時間は月に45時間まで、1年に360時間までと決められています。働き方改革が施行されるまでは無視されがちだった上限時間ですが、改革後は厳しい罰則が科されるようになりました。

2-3. 特別条項付き36協定

通常、上限を超えた時間外労働は禁止されていますが、特別な条項を協定内に付すことによって上限時間を延長できます。このように、特別な条項を付した36協定のことを「特別条項付き36協定」といいます。

「臨時的な特別の事情がある場合」といったようにケースは限定されていますが、特別条項付き36協定を結べば、月に45時間まで、1年に360時間までという上限を超えた時間外労働も可能になります。ただし、特別条項付き36協定にも上限はあります。

3. 特別条項付き36協定による時間外労働の上限

特別条項さえ付けておけばいくらでも残業させられるとなると、労働者に不利な労働環境になります。働き方改革以前は時間外労働時間の上限がありませんでしたが、改革では特別条項にも上限時間を設けました。ここでは、特別条項付き36協定の上限時間について解説します。

3-1. 1か月100時間未満(休日労働含む)

ひとつの上限は、1か月100時間未満(休日労働を含む)です。1か月の時間外労働は、休日労働と合わせて100時間を超えてはいけません。休日労働とは「最低でも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならない」という法定休日の条件を満たさない労働のことです。

たとえば3つめの上限である「1年に720時間以内」をクリアしたとしても、時間外労働と休日労働が合わせて100時間を超える月がひと月でもあれば、特別条項付き36協定の上限をクリアしたことにはなりません。労働基準法違反となり、罰則の対象になります。

3-2. 2か月~6か月平均80時間以内(休日労働含む)

2つめは少し複雑に感じるかもしれませんが、具体例で考えれば難しくありません。直近5か月の残業時間を「1月:65時間」「2月:65時間」「3月:75時間」「4月:75時間」「5月:95時間」として考えてみましょう。

まず、すべての月が100時間以内におさまっており、ひとつめの上限はクリアしています。ただし、2つめの条件についてはどうでしょうか。

1月から4月までは1か月平均、2か月平均、3か月平均、4か月平均とすべて80時間におさまっているので問題ありません。しかし、5月が加わると、3月から5月の3か月平均、4月から5月の2か月平均がどちらも80時間をオーバーするので違反となります。

この場合、5月を85時間以内におさめれば、3月から5月の平均が78.3時間、4月から5月の平均が80時間とどちらも違反にはなりません。このように、2か月~6か月すべての平均が80時間でなければなりません。

3-3. 年720時間以内(休日労働を除く)

最後の上限は、1年間のトータルの時間外労働を720時間以内におさめなければならないというものです。

1つめと2つめの上限は「休日労働を含む」となっていますが、今回は「休日労働を除く」となっています。つまり、休日労働を含まずに時間外労働だけで720時間におさまることが条件です。

ちなみに、720時間を超えていなくても、会社で定めた特別条項の内容に反してはいけません。たとえば、1年の上限を650時間とするという特別条項にしていた場合、680時間の時間外労働は法律違反になります。

 

4. 時間外労働の計算が難しくなる特殊な労働ケース


残業代の計算方法を説明する前に、特殊な労働ケースについて触れておきましょう。以下に挙げる6つのケースは計算が難しくなる可能性がありますが、最近増えている事例です。ここでは、具体的にどのようなケースがあるのか見ていきます。

4-1. みなし残業(固定残業代)

「みなし残業」とは実際の残業の有無にかかわらず、あらかじめ決められた固定残業代を毎月支払う制度です。「月30万円(45時間分の固定残業代5万円込み)」というように、想定残業時間と固定残業代を明確に決めておく必要があります。

本来は「会社の残業代計算がラクになる」「従業員の安定収入につながる」といったメリットにつながる制度です。しかし、きちんと理解していない会社や悪用する会社もあるようで、「いくら残業しても給料が変わらない」といった従業員側の不満を聞くこともめずらしくありません。

みなし残業について誤解している方もいるようですが、残業がない月でも固定残業代は全額支給され、逆に想定残業時間を超えた労働には固定給とは別に残業代が出ます。

4-2. フレックスタイム制

「フレックスタイム制」とは出勤する必要がある「コアタイム」が決められているだけで、それ以外の詳細な出退勤時間は決められていない労働形態をいいます。3か月以内の一定期間(清算期間)における総労働時間が定められており、その枠内であれば出退勤時間を自由に決められます。清算期間は週単位や月単位など会社によって異なります。

働き方の特性上、残業時間は1日単位で判断しません。このことを利用して、深夜まで帰れないような業務内容になっているケースもあるようです。しかし、清算期間における総労働時間を超えた場合や(清算期間が1か月を超える場合には)1か月の労働時間につき週平均50時間を超えた場合には残業手当が発生することを知っておくとよいでしょう。

4-3. 変形時間労働制

「変形時間労働制」とは月単位や年単位で労働時間を調整できる働き方です。繁忙期とそれ以外の時期でバラつきが生じる勤務体制に柔軟に対応できることがメリットです。

そのため、繁忙期とそうでない時期の差が激しい職場や365日稼働している会社(シフト制の会社)で導入されるケースが多く見られます。仕事の多い時期は忙しいものの、少ない時期には早く帰れるのでメリハリをつけた働き方ができます。

ただし、変則性をいいことに所定労働時間をあやふやにしている会社もあるようです。就業規則を確認して所定労働時間を把握することが重要といえるでしょう。また、月間や年間の法定労働時間を超えれば、時間外労働として残業手当が支払われます。

4-4. 裁量労働制

「裁量労働制」とは出退勤時間の制限がない自由な労働形態で、研究者や設計者といった一部の対象者にのみ適用できる制度です。具体的には、「月に●●時間働いたこととする」とみなし時間を定めます。実際に働いた時間がみなし時間より多くても少なくても、みなし時間分働いたこととして処理します。

自分自身で仕事の進め方を管理できるメリットがありますが、実際は上司に出退勤時間を管理されているケースや能力・業務内容に見合った賃金になっていないケースが見られるようです。また、制度の性質上「残業」の概念がないため、不当な長時間労働を強いられる場合もあります。

4-5. 年俸制

「年俸制」は一般の会社でも導入されることが増えてきた制度です。残業の概念がないと思っている方も多いかもしれませんが、法定労働時間の範囲内で労働した場合の賃金を1年単位で算出し月ごとに分けて支払っているだけで、通常の労働ケースと大きな違いはありません。

そのため、法定労働時間を超えた分は時間外労働として残業手当が支払われます。年俸額に固定残業代が含まれている場合、想定残業時間を超えた分に関しては別途残業代の支給対象となります。つまり固定残業制(みなし残業)における残業代の考え方と同じです。

4-6. 管理職

ここまで残業代に対する考え方が少し複雑なケースをご紹介しましたが、労働ケースはほかと変わらなくても、立場や肩書きによって注意が必要な場合もあります。たとえば、管理職の場合です。

法律上「管理監督者」にあたる管理職の従業員には、残業代を支払う必要がありません。しかし、社内では管理職でも法的な管理監督者ではない場合があります。いわゆる「名ばかり管理職」です。この場合、ほかの社員同様に残業代をもらう権利があります。

また、残業が深夜残業(22時~翌朝5時の間に行う労働)にあたる場合、管理監督者であっても残業代が支払われます。ただし、計算方法は一般社員と異なります。

 

5. 時間外労働の手当(残業代)の計算方法

それではいよいよ自分の正しい残業代を知るための計算方法を見ていきましょう。まずは労働基準法で定めている「割増率」について解説し、それから具体的な計算方法をご紹介します。計算が合わないときや難しいときの対処法もお教えしますので、ぜひチェックしてみてください。

5-1. 時間外労働の手当(残業代)の割増率

法定労働時間(1日に8時間、週に40時間まで)を超えた時間外労働に対しては手当(残業代)が支払われます。具体的な割増率は「1.25倍」と定められており、通常の1.25倍の賃金(割増賃金)を支払う必要があります。

割増賃金の支払いが義務づけられているのはあくまでも法定労働時間を超えた時間外労働に対してなので、所定労働時間(会社が決めた就業時間)を超えていても法定労働時間内であれば割増賃金の対象にはなりません。ただし、会社が独自に割増賃金を支払うケースもあるようです。混同しないようにしましょう。

5-2. 時間外労働の手当(残業代)の計算方法

ここでは、具体的な計算方法をご紹介します。まずは、基本の計算式を確認しましょう。

【1時間あたりの賃金×時間外労働の時間数(時間)×1.25】

1時間あたりの賃金は【月給÷1か月の平均所定労働時間(時間)】で求めます。この際、月給に含める手当と除外する手当があるので注意しましょう。含める手当は役職手当、業務手当、職務手当、調整手当、地域手当、除外する手当は賞与、通勤手当、家族手当、子女教育手当、別居手当、住宅手当、出産手当といったものです。

こうして求めた1時間あたりの賃金に、残業時間(原則として1分単位で算出)をかけ、さらに1.25の割増率をかけて残業代を算出します。

なお、残業の時間帯や休日労働に該当するか否かによって異なる割増率を使った計算が必要になるため、上記の計算はおおよその目安を知る基本式ととらえましょう。

5-3. 時間外労働の手当(残業代)の計算が合わない場合には

基本式に自分の条件を当てはめて計算してみましょう。計算結果よりも実際にもらっている金額のほうが少ない場合、正しい割増賃金が支払われていない可能性があります。

割増賃金の支払いは労働基準法が定める義務なので、適正な支払いがされていない場合は違法となり罰則の対象となります。会社に対して不足分を請求することも可能です。心当たりのある方は、会社に対する残業代請求を検討しましょう。弁護士に相談をすれば、自分1人で取り組むよりも簡単に請求が行えます。

なお、残業代請求には2年という時効が設けられているので、できるだけ早めの対応がおすすめです。

 

6. まとめ


ここまで、時間外労働の正しい知識や計算方法を紹介しました。正しく支払われていない残業代は請求できるということも理解できたでしょう。

請求するには正確な残業時間の把握や正しい計算、諸々の手続きが必要ですが、専門家である弁護士に頼めば決して難しくありません。的確な主張と法的処理によって、本来もらえるはずだった残業代を取り戻すことができます。自分で請求するよりも取り戻せる可能性が高く、手間もかからない方法といえるでしょう。

ただし弁護士に相談する場合、残業代請求の成功/不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が通るか分からない中で、弁護士に数十万円を最初に渡すのは抵抗がある方も多いかもしれません。

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