2020/03/04

【弁護士監修】みなし残業(固定残業代)の仕組みや注意点!残業代の未払いがあったらどうする?

執筆者 編集部
残業代関連

「先月は残業をたくさんしたはずなのに、その前の月と給料の金額が同じだった」という
経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。こうしたケースでは、会社が「みなし残業」の制度を導入している可能性が高いでしょう。

この記事では、みなし残業制度(固定残業代)の仕組みや注意点について解説します。どのようなケースで残業代の未払いが発生するのか、未払い残業代が発生している場合にどういう対策を取ればよいのかについても説明しますので、ぜひ参考にしてください。
 

【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)

監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか

1. みなし残業(固定残業)の仕組みと適用時の注意点


みなし残業という言葉を耳にしたことがある方も多いでしょう。しかし、みなし残業の法律上の意味はわからないという方もいるかもしれません。

労働問題については、法律のルールとして決まっている内容が重要です。まずは、みなし残業の基本的な仕組みについて理解しておきましょう。その上で、勤務先がみなし残業を適用している場合に労働者として何に注意しておくべきかについても見ていきます。

1-1. みなし残業とは?

みなし残業とは「実際に行った残業時間にかかわらず、予め定められた同じ金額の残業代が支給される労働契約」です。固定残業という場合も同じ意味になります。

たとえば、「月に40時間までの時間外労働については、固定残業代として5万円を支給する」というルールがあったします。実際の残業が38時間でも5時間でも、固定残業代として月に5万円が賃金として支払われます。

残業のあるなしにかかわらず同じ金額ということですから、実際の残業時間が少なければ従業員側が得をします。一方で、たくさん残業をした場合にも受け取る給料の金額は同じです。但し、本来は、固定残業代に相当する労働時間(上記だと40時間)を超過して残業をした場合は、超過分について別途残業代の支給が必要です。
この超過分の残業代の支給を行っていなかったり、みなし残業が有効となるための要件を満たしていない会社も多く、会社によっては適切な残業代の支給をしないままに長時間労働が蔓延するなど、勤務実態が劣悪な状況となっていることがあります。

1-2. 従業員の個別の同意を得るか、従業員全体への周知が義務

会社がみなし残業の制度を採用するためには、従業員から個別に同意を得るか、就業規則によって全従業員に周知する必要があります。

従業員から個別に同意を得る場合、個別の雇用契約書等において固定残業代の金額と残業時間を明記していなければなりません。また、就業規則によって企業側がみなし残業を採用すると周知しても、これだけで周知義務を果たしたということにはなりません。みなし残業の有無について記載してある就業規則は、事業所内の全従業員が見られる場所に保管する義務があります。あなたの会社の就業規則も、すぐに確認できる状態になっているでしょう。

賃金に関するルールを社内の誰でもわかる状態にしておくことは、会社の義務であり労働者の権利です。会社の就業規則がどうなっているのかを、ぜひ確認してみてください。

1-3. 金額と時間の明確な記載が必須

みなし残業代を会社のルールとして採用するためには、就業規則において「金額」と「時間」の両方について明示しなければなりません。正確にいうと、金額は明確に記載する必要があり、時間については明確な記載が「推奨」されています。

具体的には、労働者が受け取る賃金のうち、どこまでが基本給でどこからが残業代なのかを明らかにしておかなくてはなりません。

たとえば、「月給25万円(時間外労働45時間分の残業代5万円を支給)」といった表現の仕方であれば、金額と労働時間の両面から基本給と残業代の区別を知ることができます。

過去の裁判例では「残業に該当する時間数は就業規則に記載されているが、金額については記載されていなかった」という事案において、みなし残業代の扱いを認めなかったものがあります。

たとえば、「法定労働時間外の労働40時間分の時間外手当ては、基本給として支給される賃金に含める」という記載がされていた場合、時間数は明確にされているものの、具体的な金額がわからないために違法と判断される可能性があります

2. みなし残業(固定残業)の時間について


企業側の立場から見ると、みなし残業の制度を使えば、労働者に長時間の残業をさせることが可能となります。

上でも見たように、会社は固定の残業代を人件費として負担するのであれば、もとをとるためにも労働者側にある程度の残業を強制する可能性があるでしょう。実際に受け取った賃金額を働いた時間で割り算した「時給」で見たときに、最低賃金を下回ってしまうような職場も存在します。

ところで、みなし残業を使えば企業は固定の残業代を負担するだけで、いくらでも残業させることができるのでしょうか。

2-1. 固定残業時間の上限とは?

結論からいうと、みなし残業を採用している会社であっても、いくらでも従業員に残業をさせてよいわけではありません。

みなし残業(固定残業代)について法律上の上限が定められているわけではありませんが、いわゆる過労死基準を超えるような長時間労働が恒常的に発生することを前提とするみなし残業(固定残業代)は無効となる可能性が高いです。例えば、月80時間を超えるような長時間の残業代分の固定残業代は、無効となる可能性が高いでしょう。

また、労働契約をした固定残業代に含まれる残業時間を超えて労働した場合は、超過時間分の残業代を追加で支給する必要があります。

2-2. 具体例:みなし時間が実労働より多いとき

みなし時間が実際の労働時間よりも多いときには、企業は残業時間数にかかわらずあらかじめ定めた固定残業代を支給しなくてはなりません。

たとえば、みなし時間が40時間で、みなし残業代として5万円が毎月支給されているとしましょう。この場合は、実際の残業時間が10時間でも20時間でも、あるいは0時間だったとしてもみなし残業代5万円を支給します。

2-3.具体例:みなし時間が実労働より少ないとき

一方でみなし労働時間を40時間、みなし残業代を5万円としたときに、実際の労働時間が50時間となってしまった場合はどうでしょうか。つまり、みなし労働時間が実労働時間よりも少ないときです。

この場合には、実際の労働時間50時間からみなし労働時間40時間を差し引いた10時間分の残業については、固定の残業代にプラスして残業代を払わなくてはなりません。

3. みなし残業(固定残業)のメリット

事前に残業代を固定しておくみなし残業には、どのようなメリットがあるでしょうか。お給料を支払う会社側とお給料を受け取る労働者側のそれぞれのメリットについて理解しておきましょう。

3-1. 会社側のメリット

会社にとって、労働者に対して支払うお給料の計算は大変な労力がかかる作業です。特に、残業時間数については実際にタイムカードなどの記録から具体的な時間数を集計しなくてはなりません。経理や総務に属するスタッフの人員構成によっては、事実上処理が不可能な状況になっている可能性もあります。

こうした状況の会社側にとって、残業代の集計作業が不要になるみなし残業の採用によって、事務処理の手間を大幅に減らすことができます。

また、会社によっては、固定残業代に含まれる残業時間を超えて労働した場合に、超過時間分の残業代を支給していないことがあります。このような違法な取り扱いをしている会社では、「労働者が長時間働いても支払う賃金は同じ」ということになり、労働者1人あたりの業務量が多く、残業の発生が多い職場においては、支払う賃金が実質的に安くなるという事実上の効果があります。

3-2. 労働者側のメリット

みなし残業は、労働者の側には、どのようなメリットがあるでしょうか。みなし残業代とは、「残業をしても残業をしなくても受け取る賃金額は同じ」という制度です。

そのため、実際に働いた時間数が少ないような場合には、「実際には残業をしていないけれど、残業代に相当する賃金をプラスで受け取れる」ということになります。残業が少ない職場においては、得をすることになるでしょう。

 

4. みなし残業(固定残業)のデメリット


みなし残業には、上で見たようなメリットのほかに、デメリットもあります。労働者にとって、実際はみなし残業によってデメリットが生じている場面の方が多いのではないでしょうか。あなたの職場ではどのような状況になっているか確認してみてください。

4-1. 会社側のデメリット

みなし残業代は、残業時間の有無にかかわらず残業代を加算して賃金を支払う制度です。会社としては、常に多めに人件費を負担していることになります。労働者が残業する必要のない業務量の会社にとっては、人件費が割高になるというデメリットあります。

また、会社としては「支払っている残業代分は働いてもらおう」という考えが傾きがちです。結果的に、労働者1人当たりの業務量が非常に多くなってしまっている職場が多いのが実情です。労働環境がよくない会社というイメージがついてしまうかもしれません。

4-2. 労働者側のデメリット

労働者側から見ると、みなし残業の場合、どれだけたくさん残業しても実際に受け取れる賃金額は同じです。雇用契約や就業規則で定められた時間内なら、深夜残業や休日出勤をしてもその分の割増賃金は支払われません。

残業が少ない場合には前記のとおり「得をする」仕組みといえますが、残業が多い場合には超過時間分の残業代の支給がなく、実際に残業した分よりも実質的に少ない金額の賃金しか受け取れていないケースが多いでしょう。

「得をしているか、損をしているか」をおおまかに知るためには、実際の残業時間を計測しておき、固定残業代の金額をその時間数で割り算してみるとよいでしょう。これによって、あなたの残業に対する実質的な「時給」を知ることができます。

月給制で賃金を受け取っているサラリーマンの場合、自分の時給がいくらかという感覚は持ちにくいかもしれません。しかし、残業に対する実質的な「時給」が、あなたの本来の時給(基本給を所定労働時間で割ったもの)や、場合によっては最低賃金を下回ってしまっているケースも少なくありません。

 

5. 残業代の未払いがあったら

みなし残業により残業代の未払いがあることがわかった場合には、どういう対処をとるべきでしょうか。未払いの残業代は本来であればあなたが賃金の一部として受け取れるはずの、あなた自身のお金です。適切に対処をすれば受け取れる可能性が高いため、以下のような対処法を知っておくと安心です。

5-1. 労働者側のデメリット

残業代の未払いを取り戻すためには、企業側と交渉を行うことが基本になります。会社がすんなりと支払ってしまうと、同じように残業代を請求する従業員が増えることが考えられます。そのため、従業員が自分で残業代を請求した場合、会社側はすぐに追加の支払いを認めず交渉は難航するのが一般的です。

会社側が自発的に未払い残業代の支払いを行わないケースでは、法的措置を辞さない姿勢を見せる必要があります。そのための具体的な対策としては、弁護士経由で交渉を行うのがもっとも効果的です。会社側としては、弁護士名義で請求書を送ってきた段階で、あなたが本気で残業代を取り戻すつもりであることを感じ取るでしょう。

また、未払い残業があるのが当然のようになっている職場で現在も就業中である人にとって、会社に対して声を上げるのはかなりの勇気が必要でしょう。

こうしたケースでも、弁護士経由で丁寧に会社側との交渉を行うことが問題解決につながります。あなたが声を上げることは、職場内のすべての従業員にとってプラスになるでしょう。未払い残業代の請求は、すでに退職した会社に対してだけでなく、現在就業中の会社に対しても行えます。

5-2. 労働基準監督署に報告

未払いの残業代が発生している状況を放置していると、会社としては刑事罰を受けたり、行政の指導に入られたりといったリスクを抱えることになります。従業員が労働基準監督署に報告した場合、なんらかのかたちで行政指導が受ける可能性があります。こうなると会社としても行動を起こさざるを得なくなります。

ただし、行政に動いてもらうのには、かなりの時間と労力が必要ですし、個別の従業員への残業代の支給を強制することもできません。少しでも早く確実に未払いの残業代を回収したいのであれば、やはり弁護士経由で請求書を送るのがおすすめです。

 

6. まとめ


みなし残業代を導入している職場で働く人に向けて、未払いの残業代が発生する仕組みや対処法について解説しました。みなし残業には注意点やメリット・デメリットがあります。みなし残業制度を導入している職場で未払いの残業代があるならば、労働問題を専門とする弁護士に相談することを検討してみてください。

ただし弁護士に相談する場合、残業代請求の成功/不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が通るか分からない中で、弁護士に数十万円を最初に渡すのは抵抗がある方も多いかもしれません。

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