2020/01/19

【弁護士監修】未払い残業代を請求する方法と請求できるケースをご紹介

執筆者 編集部
残業代関連

残業続きの毎日だけど、きちんと残業代が支払われているのか不安に思っている人も多いのではないでしょうか。サービス残業ばかりで残業代が支払われずに困っている人も少なくないでしょう。
残業代はどこまで請求できるのかが一般の人には分かりにくく、「自分のケースでは請求できるのか」と疑問に思うのも無理はありません。
そこで、この記事では未払い残業代の請求方法や請求できるケースを解説していきたいと思います。未払い残業代を請求したいとお考えの方は、参考にしてみてください。

【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)

監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか

1. 未払い残業代の請求方法と流れ

未払い残業代を請求するためには、準備をしっかりしておくことが重要です。未払い残業代がいくら発生しているのかを計算し、その証拠を集めておかないと、請求しても会社から相手にされない可能性が高いからです。
しかし証拠を提示しても会社が支払わない場合、別の方法をとる必要があります。ここからは未払い残業代の請求方法と流れを解説します。

1-1. 残業の証拠を集める

未払い残業代を請求するための証拠として、「残業した事実を証明する証拠」と「請求できる残業代を計算するための証拠」が必要です。
残業した事実を証明する証拠としては、タイムカードや出勤簿などの勤怠記録、業務用パソコンのログイン・ログオフの記録、業務上のメールの送信歴、社員IDカードによる入出館履歴、交通IDカードによる電車やバスの履歴、業務日報や手帳、日記などに記載した労働時間の記録などがあります。
請求できる残業代を計算するための証拠としては、雇用契約書や就業規則のコピーなど労働条件を定める書類があります。残業代が支払われていないことの証拠として給与明細も保管しておきましょう。

1-2. 残業代の計算をする

残業代がいくら未払いになっているのかを正確に計算しておかなければ、漠然と請求をしても会社からはぐらかされる可能性が高くなります。集めた証拠に基づいて正確に計算しておきましょう。
残業代の計算式は、「1時間当たりの賃金額」×「残業時間」×(1+「割増率」)です。1時間当たりの賃金額は、日給制の場合は日給を8時間で割った金額になります。月給制の場合は、基本給を1ヶ月あたりの平均所定労働時間数で割った金額です。
1ヶ月当たりの平均所定労働時間数とは、年間所定労働時間数(=(365日-年間所定休日数)×1日の所定労働時間)を12で割ったものをいいます。
割増率は、基本が25%、法定休日労働は35%、深夜労働の場合は+25%です。ただし、雇用契約書や就業規則にそれ以上の割増率が定められている場合は、その割増率で計算します。

1-3. 会社と交渉する

証拠を集め、未払い残業代を計算したら、実際に請求することになります。まずは穏便な解決を目指して会社と交渉してみましょう。
ただし、残業代の未払いが常態化しているような、いわゆるブラック企業の場合、話し合いで解決するのは難しいこともあります。交渉がうまく進まない場合は、会社宛に内容証明郵便を送付しましょう。
請求する内容を漏れなく正確に記載した内容証明郵便を送ることで、会社に未払い残業代の支払いを促すことができます。
内容証明郵便に法的な強制力はないので、必ずしも支払ってもらえるとは限りませんが、支払ってもらえない場合でも、内容証明郵便を送ることで、請求したという証拠を残すことができます。
残業代の請求権は2年で消滅時効にかかりますが、内容証明郵便を送ることで、その到着日から6か月間、時効の完成を一時的に止めることができます。
そしてその6か月の間に別途、時効の「中断」(たとえば労働審判や裁判)を行うことで、当初時効が完成するはずだった2年を過ぎても残業代を請求ができるようになり、請求できる残業代が減ることを防ぐことができるのです。

1-4. 労働基準監督署から是正勧告をしてもらう

内容証明郵便を送付しても会社が支払ってくれない場合、労働基準監督署に申告するという方法があります。会社の所在地を管轄する労働基準監督署に相談しましょう。
自宅と勤務地が離れている場合も、本社と勤務地が離れている場合も、勤務地を管轄する労働基準監督署に行きましょう。
申告に基づいて労働基準監督署が調査した結果、残業代未払いという労働基準法違反の事実が認められた場合は是正勧告を出してくれます。是正勧告を受ければ、会社が未払い残業代を支払ってくれることもあります。
ただし重要なのは、是正勧告には強制力がなく、労働基準監督署が未払い残業代を回収するよう交渉してくれるわけでもないので、支払わない会社もあります。そのため残業代を回収することが重要な場合、弁護士に相談することがおすすめです。

1-5. 労働審判を行う

会社が自主的に支払ってくれない場合、裁判所の手続を使うことになります。通常の訴訟をいきなり提起することもできますが、まずは労働審判の申し立てを考えてみましょう。
労働審判は、基本的には各都道府県に1箇所ずつある地方裁判所(北海道は4箇所)に申し立てる必要があります。労働審判申立書に証拠を添付して地方裁判所に提出すれば、40日以内に第1回期日が指定されます。
労働審判では、審判官(裁判官)1人と労働問題に関する見識が高い労働審判員2人によって審理が行われます。通常の訴訟と異なり、適宜話し合いも交えながら柔軟な解決を図る手続です。
原則として審理は3回以内で、ほとんどの場合は3ヶ月以内に終わるので、1年以上かかることも多い通常の訴訟より早い解決が期待できます。ただし、早期の柔軟な解決を測る手続であるため、満額の未払い残業代を回収できるケースはあまりないことに注意が必要です。

1-6. 労働訴訟を行う

労働審判に不服がある当事者は、異議申し立てをすることができます。異議申し立てをすると、そのまま労働訴訟に移行します。
事案が複雑な場合は、労働審判を審理する裁判所の判断で労働訴訟に移行されるケースもあります。
労働訴訟では、概ね1ヶ月に1回の割合で期日が開かれます。期日では、自分と会社がそれぞれ主張とその主張を証明するため、主張を裏付ける事実に関する証拠を出し合います。主張と証拠が出そろったら、証人や本人の尋問が行われ、判決言い渡しに至ります。
労働訴訟では未払い残業代に遅延損害金(遅延利息)まで含めて満額を回収することも可能ですが、そのためには自分が主張する事実を、それらがきちんと存在していたと合理的に考えられる程度に証拠で証明する必要があります。
なお、労働訴訟でも審理の途中で和解によって柔軟な解決を図ることも可能です。

2. 未払い残業代を請求できるケース

労働契約上、所定時間外に働いたら残業代が発生し、未払いであれば請求することができます。一般的な労働契約を結んで働いている人なら分かりやすいですが、給与に最初からみなし残業が含まれている人や年俸制で働いている人は注意が必要です。
これらの契約の場合、残業代は発生しないと思い込んでいる人も少なくありませんが、実は残業代を請求できるケースが少なくありません。そこでここでは、さまざまなケースごとに、どんな場合に残業代を請求できるのかをみていきましょう。

2-1. 退職を理由に残業代の請求をあきらめている

会社を退職した後は未払いの残業代を請求することはできないと思っている人もいますが、退職後でも未払い残業代を請求することはできます。
残業をすれば残業代の請求権が発生しており、退職したからといってその請求権が消滅するわけではないのです。
ただし、残業代の請求権は2年で消滅時効にかかることに注意が必要です。最後の給料日から2年以上が経過すると、もう未払い残業代を請求することはできなくなります。
その前であっても、時が経つにつれて1ヶ月分ずつ請求できる未払い残業代が減っていくので、早めに請求することが大切です。
なお、退職後には未払い賃金に加えて年14.6%の遅延利息も請求できます。支払うべきお金を支払わない会社に対しては高い遅延利息を請求できるということも覚えておきましょう。

2-2. 管理職という名目で残業代が払われていない

労働基準法上、管理職(管理監督者)には残業代の支払いは必要ないとされています。ただし、ここでいう管理職とは、「事業経営・労務管理上、経営者と同等の立場にあり、労働時間管理を受けず、給与などでその地位にふさわしい待遇を受けている」人のことを指します。
ところが、世の中には経営者の指揮監督を受けるポジションであり、出退勤時間も管理されていて、待遇も一般社員とあまり変わらないのにもかかわらず管理職の肩書きを与えられて、残業代が支払われていない方もいます。
この「名ばかり管理職」は、労働基準法上は管理監督者にあたらず、一般社員と同じ扱いとなります。管理職の肩書きがあるために他の一般社員より早く出社し、遅く退社することを余儀なくされるケースも多いですが、所定労働時間を超える労働をした分は残業代が発生します。
1日3時間の時間外労働を月25日した場合は、75時間(3時間×25日)分の残業代を請求できます。

2-3. 派遣社員を理由に残業代が払われていない

派遣社員の場合、給与は派遣先会社と派遣元会社との契約に基づいて支払われます。その契約の中で、1日あたりの所定労働時間が定められています。
所定労働時間を超えて働いても、派遣元会社が残業を認めなかったり、派遣先会社がサービス残業を強要したりして残業代が支払われないケースがあります。
しかし、派遣社員にも労働基準法が適用されるので、残業をすれば残業代は発生します。ただし、契約上の所定労働時間を超えて働いても、法定労働時間(1日8時間)内であれば割増賃金は発生しません。
例えば、契約上の1日あたりの所定労働時間が7時間で実際には10時間働いた場合、3時間の残業のうち1時間は割増賃金がつかず、通常の時給で計算した給与が支払われます。法定労働時間を超えた2時間についてのみ、割増賃金で計算された残業代が支払われます。
ただし、派遣社員が残業する場合は事前に派遣元会社の許可を取ることと決められているのが通常です。トラブルを避けるために、必ず事前の許可を取るようにしましょう。

2-4. みなし残業代という名目で残業代が払われていない

みなし残業代とは、1ヶ月あたりの残業時間と残業代をあらかじめ想定して、固定額を基本給に含めて、または基本給と別の手当として支払う給与形態のことです。
1ヶ月あたりの残業時間を10時間、その分の残業代を1万5,000円と想定して固定残業代を取り決めた場合、実際の残業時間が1ヶ月10時間未満であっても固定残業代1万5,000円が支給されます。
一方で、実際の残業時間が1ヶ月10時間を超えた場合は、固定残業代に加えて超えた時間分の残業代も発生します。1ヶ月に20時間残業した場合は、固定残業代でカバーされる10時間分を超えた残りの10時間分の残業代を固定残業代とは別に請求できます。
なお、固定残業代がそれ以外の賃金と明確に区分して定められていない場合や、何時間分の残業代に相当するのかが明確に定められていない場合は、固定残業代の取り決め自体が無効になります。その場合は、実際に残業した時間分の残業代を請求できます。

2-5. 年俸制を理由に残業代が払われていない

年俸制とは、給与を時間単位や1ヶ月単位ではなく、1年単位で賞与も含めて取り決める給与体系のことです。成果を労働時間では測りにくいスポーツ選手、医師、エンジニアなどの職種で年俸制の採用が広まっています。
年俸制を採用すると、会社側も労働者側も、何時間働いても残業したと考えないケースが多いですが、これは誤りです。
年俸制であっても使用者と労働者という雇用関係にある以上、法定労働時間や労働契約などに定められている所定労働時間を超えて働いた場合は残業代が発生します。年俸制は給与の計算を1年単位で行うものに過ぎず、残業代を除くものでは決してないのです。
したがって、年俸制であっても1日10時間、月25日働いた場合は、50時間(2時間×25日)分の残業代を請求することができます。
なお、年俸制の場合は契約において「月○○時間、○万円分の残業代を年俸額に含む」という取り決めがなされる場合も多くあります。この場合でも、取り決めた時間を超える労働をした場合は、取り決めた時間を超えた分については別途、残業代を請求できます。

2-6. 歩合給を理由に残業代が払われていない

歩合給とは、仕事の成果に対して支払われる報酬です。歩合制で働いているトラックやタクシーの運転手は時間で給料を計算するわけではないからといって残業代が支払われないことがよくあります。
しかし、歩合制といっても、労働時間に応じた一定額の保障給のない「完全歩合制」は違法とされています。適法な歩合制は必ず「保障給+歩合給」という給与体系になっています。そして、保障給の部分は労働時間に基づいて計算されるので、法定労働時間を超えて仕事をしたら残業代を請求することができます。

3. 未払い残業代請求で労働審判をする場合は専門家に相談しよう

労働審判や労働訴訟は自分でやることも可能ですが、手続きが複雑であり、負けるリスクもあるので専門家に相談した方がいいでしょう。特に、会社が顧問弁護士を雇っている場合は、自分1人では不利になってしまいます。
専門家に相談するなら、すべての手続を代行することができる弁護士がおすすめです。ただし、弁護士にも得意分野・不得意分野があるため、労働問題が得意な弁護士に相談するのがベストです。

3-1. 専門家に依頼する際の費用

弁護士に依頼する場合は、費用がかかります。通常は依頼する時点で着手金を支払い、終了時に成功報酬を支払う形になります。
相場としては、着手金は請求額の8%、成功報酬が回収額の16%程度です(請求額300万円以下の場合)。例えば、300万円を請求する場合は着手金が24万円、満額300万円回収できれば成功報酬が48万円となります。
成功報酬は相手からお金を回収した後に支払うものなのでまだいいのですが、最初に支払う着手金は大きな負担となってしまいます。請求額が100万円だとすれば8%で8万円ですが、着手金最低額を10万円や15万円に設定している弁護士も多く、それなりの金額がかかってしまいます。
そのため、未払い残業代を請求したい人の中には、着手金の支払いがネックとなって弁護士に依頼したくてもできない人が多くいます。

そんな方におすすめなのが『アテラ 残業代』です。
①『アテラ 残業代』では、弁護士の着手金を立替えてもらえるので、お手元から現金を出さずに、弁護士に着手金を払って残業代請求を依頼することができます。
②さらに、『アテラ 残業代』を利用すると、敗訴した場合や勤務先からお金を回収できなかった場合には、立替えてもらった着手金を実質返済する必要がないので、リスク0で残業代請求を行うことができます。
残業代請求をするときのリスクは、最初の着手金を支払うことで敗訴したときに収支がマイナスになってしまうことですが、『アテラ 残業代』を利用することでそのリスクがなくなります。

着手金にお困りの方、残業代請求のリスクをゼロにしたい方は、ぜひ『アテラ 残業代』をご利用ください。

3-2. 専門家に依頼するメリット

労働問題に強い弁護士に依頼すると、弁護士を依頼しない場合に比べて費用はかかりますが、以下のように大きなメリットがあります。

・残業代の計算ミスを防げる
残業代の計算になれていないと単純な計算ミスのおそれ、どこまでの労働が残業代請求の対象になるのかが一般の人には分かりにづらいことから残業代の計算を誤るおそれがあるという問題もあります。労働問題に強い弁護士なら、法律や裁判例に基づいて正確な残業代を計算することができます。

・会社の圧力に屈しない
自分で未払い残業代を請求すると、上司とは指揮命令関係にあるため、圧力をかけられると屈してしまい、自分の主張を貫くことができない恐れがあります。弁護士に依頼すればすべてを代行してくれるため、自分で対応する必要がありません。相手会社からの圧力に屈する心配がなくなります。

・会社からの報復にも対応できる
在職中に未払い残業代を請求すると、パワハラや嫌がらせ、解雇や降格処分を受けたりする恐れがあります。

退職後でも、在職中の細かなミスや事故を取り上げて損害賠償を請求されるケースもあります。労働問題に強い弁護士なら、これらのような相手会社からの報復に対応するノウハウも豊富に持っているので、適切に対処してくれます。

4. まとめ

未払い残業代を請求する際のポイントをまとめてみましょう。
・残業代が出ないと思っているケースでも実は請求できる場合がある
・残業代を証明できる証拠を集める必要がある
・証拠に基づいて残業代を正確に計算しなければならない
・会社が自主的に支払わない場合、強制的に会社に残業代を支払わせるには裁判手続が必要

これらの問題に自分で対応するのは大変ですが、弁護士に依頼すればすべてを代行してくれます。
しかし、弁護士に依頼する場合はお金がかかるので、着手金にお困りの方、残業代請求のリスクをゼロにしたい方は、ぜひ『アテラ 残業代』をご利用ください。

なお、着手金支払いの負担・リスクではなく、どの弁護士に頼むかでお悩みの方は、ぜひ株式会社日本リーガルネットワークが運営するWebサイト『残業代・解雇弁護士サーチ』の弁護士検索機能をご利用ください。

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