2019/12/26
【弁護士監修】未払い残業代の遅延損害金(遅延利息)はどれくらい?具体的な計算方法をご紹介
執筆者 編集部未払い残業代が発生している場合、「その残業代に加えて遅延損害金(遅延利息)の支払いを会社に請求できる」というと、意外に思う方も多いのではないでしょうか。
未払い残業代には遅延損害金(遅延利息)がつくと知っていれば、遅延損害金(遅延利息)の分によって、同じ残業代請求でもらえる金額が変わります。
遅延損害金(遅延利息)を支払ってもらえれば、残業代の支払いが遅れたことも、少しは報われるかもしれません。
そこでこの記事では、未払い残業代の遅延損害金(遅延利息)の内容と計算方法、請求方法をご紹介します。
【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)
監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか
【目次】
1. 未払い残業代には遅延損害金(遅延利息)がつく!
なぜ未払い残業代に加えて遅延損害金(遅延利息)を請求できるのかというと、会社側が残業代を給料日にきちんと支払わないという債務不履行をしているからです。債務不履行とは、金銭債務でいうと、決められた期日までに支払うべき金銭を支払わないことをいいます。
債務不履行があると、お金を支払ってもらえなかった側に損害が発生します。予定していた収入が入ってこないので、生活に困ったり、支払いができなかったりとさまざまな不都合が生じます。その損害を賠償する金銭として請求することが認められているのが遅延損害金(遅延利息)になります。
未払い残業代が発生している場合は、きちんと残業代を支払ってもらえなかったことによって損害をこうむっています。その損害を賠償してもらうために遅延損害金(遅延利息)を請求できるのです。正当な権利なので、しっかりと遅延損害金(遅延利息)を請求するようにしましょう。
2. 未払い残業代の遅延損害金(遅延利息)と計算方法
遅延損害金(遅延利息)といっても聞き慣れない方も多いのではないでしょうか。未払い残業代にはいくらの遅延損害金(遅延利息)かかるのか、その計算方法を知らなければ会社に請求することはできません。そこでまずは、遅延損害金(遅延利息)の計算方法をみていきましょう。
2-1. 遅延損害金(遅延利息)とは?
「遅延損害金(遅延利息)」とは、上記のとおり残業代の未払いによって発生した損害を賠償するための金銭です。遅延損害金としていくら請求できるのかというと、一定の利率で計算した利息の形で請求できると定められています。
利率は勤務先によって異なります。勤務先が営利を目的とする株式会社などの場合は商法によって年利6%、営利を目的としないNPO法人などの場合は民法によって年利5%です。
(もっとも、2020年4月の民法改正で民法の年利の計算方法が変更され、商法が定める商事法定利率は廃止されます。上記は2019年10月現在未払いとなっている残業代にかかる遅延損害金の利率です。)
ただし、退職後の遅延損害金(遅延利息)の利率は「賃金の支払の確保等に関する法律」によって年利14.6%と定められています。
2-2. 遅延損害金(遅延利息)の計算方法
遅延損害金(遅延利息)の計算方法は、請求する未払い残業代の金額に、遅延損害金の利率(日割り)と遅延日数をかけます。遅延日数は、支払期限の翌日から実際の支払日までの日数でカウントします。
また、残業代の支払期限は各給料日なので、各給料日ごとに1ヶ月分ずつ計算することになります。
例えば、6月25日に支払われるはずだった未払いの残業代3万円をその年の8月1日に在職中のまま請求する場合、以下の計算式により遅延損害金は182円となります(年利6%の場合)。
3万円×6%×37日/365日=182円
※うるう年の場合は366日で割って計算します。
このケースで8月1日に退職し、9月1日に請求する場合は、遅延損害金(遅延利息)として1ヶ月分を14.6%で計算した372円が加わります。
3万円×14.6%×31日/365日=372円
8月1日までの182円と合計して554円を請求することができます。
3万円の未払い残業代に対して数百円の遅延損害金(遅延利息)はたいしたことないと思われるかもしれませんが、多くの場合は残業代の未払いが長期間続いているため、未払い期間を通算するとそれなりに大きな金額になります。軽視せずに遅延損害金を請求するようにしましょう。
3. 遅延損害金(遅延利息)の請求方法
未払い残業代の遅延損害金(遅延利息)の内容や利率、計算方法が分かっても、請求する方法が分からなければ実際に請求することができません。
遅延損害金(遅延利息)はそれだけを請求するのではなく、未払い残業代と併せて請求することになります。
3-1. 任意交渉
まずは、会社側と裁判外で任意に交渉してみましょう。穏便に話し合うのが理想的ですが、残業代の請求権には2年という時効期間もあり、時効を中断するためにも最初に内容証明郵便を会社宛に送付することがおすすめです。
また会社との話し合いが円満に進み、早期に解決できる場合もありますが、なかなかスムーズに進まない場合の方が多いでしょう。そんな場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、未払い残業代と遅延損害金(遅延利息)を正確に計算して、法的に正確な交渉をしてくれます。しかも、依頼者に変わって代理人として示談交渉を代行してくれます。
交渉によってお互いが合意すれば、示談成立となります。また、後日再度もめないように示談書や和解書などの書面を作成するのが一般的です。
3-2. 裁判外での紛争処理手続
会社との任意交渉がまとまらない場合は裁判を考える方も多いと思いますが、裁判以外にも利用できる手続きがいくつかあります。
例えば、労働基準監督署に相談するという方法があります。相談した結果、労働基準法違反の事実を労働基準監督署が確認すれば、指導や是正勧告を出すことになります。ただし労働基準監督署への申告には個人の残業代請求に対しての強制力はないので、状況を迅速に変えたい場合は、やはり弁護士に相談するのがおすすめといえます。
その他にも、労働局の紛争調整委員会によるあっせん手続や労働委員会によるあっせん手続など、公平な第三者が間に入って問題の解決を図ってくれる手続もあります。
これらの手続は無料で利用できるメリットもありますが、やはりどの手続にも強制力がないというデメリットがあります。したがって、会社側と歩み寄りができなかった場合は裁判手続を利用することになります。
3-3.労働審判
裁判手続には、通常の訴訟以外にも労働審判という比較的簡易な手続もあります。労働審判では、裁判官である労働審判官1名と、労働審判員という有識者2名が会社と労働者の間を取りもつ形で話し合いを行います。
裁判所での手続きであることと、労働審判員が間を取りもつことから、会社と直接交渉するより話し合いがまとまりやすくなります。しかし、まとまらない場合は調停不成立となって調停手続が終了し裁判所が何らかの判断をして審判を下します。しかし、当事者のどちらかが審判に異議を申し立てれば、自動的に訴訟に移行します。
労働審判も、訴訟よりは手続が簡単で、早期に柔軟な解決が期待できるメリットがあります。
3-4. 訴訟
労働審判でも解決できなかった場合、通常の訴訟を起こすことになります。また最初から訴訟を起こすこともできます。訴訟を起こすときは「訴状」という書類に自分が裁判所に求める判決の内容とその理由を明確に書き、主張する事実を証明する証拠も添付して裁判所に提出します。
おおよそ1ヶ月半~2ヶ月程度先に第1回弁論期日が指定され、それまでに相手からの反論が提出されることになっています。以降、1ヶ月1回程度のペースの期日で開かれ、原告と被告が交互に主張と証拠を出し合います。主張と書証が出そろったら、証人や本人の尋問などを行い、判決言い渡しを待つことになります。
訴訟の場合は、判決に至れば必ず白黒がつき、勝訴すれば未払い残業代を回収することが可能です。また、勝訴した場合、裁判所が会社に対して、最大で未払い残業代と同額の付加金の支払いを命じる場合もあります。
なお、必ずしも判決を待たずに、訴訟の途中でいつでも話し合いにより和解で解決することも可能です。
4. 未払い残業代の遅延損害金(遅延利息)が支払われるかはケースバイケース
遅延損害金(遅延利息)は残業代の未払いがある以上は正当に請求する権利があります。しかし、実際に支払われるかどうかはケースバイケースです。
会社との任意交渉で未払い残業代を支払ってくれることになった場合でも、ほとんどのケースで会社側は遅延損害金(遅延利息)のカットを申し入れてきます。
労働者側としても、遅延損害金(遅延利息)にこだわって交渉が決裂すると肝心の未払い残業代がもらえなくなりますし、わざわざ裁判を起こすよりも遅延損害金(遅延利息)をカットして、早期に未払い残業代を支払ってもらう方が得策であると判断して示談にするケースが多いのです。
この構図は、労働審判の手続においても見受けられます。労働審判も話し合いの手続きなので、遅延損害金(遅延利息)はカットされることがほとんどです。
また訴訟でも、和解する場合は遅延損害金(遅延利息)をカットするのが一般的です。遅延損害金を支払ってもらえるのは、訴訟で言い渡された判決が確定した場合のみです。そのため、遅延損害金を請求しておくと、「遅延損害金(遅延利息)は譲歩するから未払い残業代は満額支払って欲しい」というように交渉の材料にすることもできます。
5. 未払い残業代の遅延損害金(遅延利息)を請求するための流れ
未払い残業代を請求したいと思っても、実際に請求する前に確認しておかなければならないことがたくさんあります。
請求できる未払い残業代が実際はないのに残業代を請求してしまったら、手間や時間、費用が無駄になってしまいます。
残業代を請求できる場合であっても、正確な計算ができずに請求漏れをしてしまったり、会社側から反論されて金銭を回収できなかったりする恐れもあります。
遅延損害金(遅延利息)も含めて未払い残業代を請求するためには、どのようなことを確認しておけば良いのかみていきましょう。
5-1. 毎月の勤務状況を把握
まずは毎月の勤務状況を確認しましょう。残業時間と実際に支払われた残業代の金額をチェックして、残業代の未払いが発生していないかを確認するのです。特に、実際に何時間労働したかを集計して、そのうち何時間分が未払いとなっているのかを特定することが重要です。
会社に未払い残業代と遅延損害金(遅延利息)を請求するためには、請求する金額を正確に計算しなければいけません。その金額を計算するために、何時間分の残業が未払いとなっているのかを割り出すことが重要です。
5-2. 給与形態の把握
次に、給与形態がいったいどのようになっているかを把握することも重要です。残業時間さえ分かれば自動的に残業代が計算できるとは限りません。
給与形態を確認して、残業代の計算方法を知る必要があります。場合によっては、深夜労働や休日労働による割増賃金を加算する必要があるでしょう。
また計算方法を知らなければ、請求する金額を正確に算出することはできません。就業規則や雇用契約書、労働条件通知書などの書類をよく見て、割増賃金の計算方法を正確に把握しましょう。
5-3. 過去の裁判を参考にする
過去の裁判を参考にするというのは、過去の例などを調べることによって、どのようなケースで未払い残業代の請求が認められ、どのようなケースで認められないかを把握するということです。
管理職の方や固定残業代の支給を受けている方、上司の指示がないにも関わらず毎日残業している方など、残業代をもらえるのかどうか分かりにくいケースも多くあります。
裁判例を調べると、どういうケースなら残業代をもらえるのかを把握することができます。自分のケースで残業代を請求できるかどうかを判断するために、事前に調べておきましょう。
5-4. 労働問題に詳しい法律事務所をチェック
前述のとおり正確な残業時間の確認、残業代の計算方法の把握、過去の裁判例を調べることなども重要ですが、これらは一般的には難しいでしょう。そのため、困ったときは弁護士に相談することがおすすめです。
ただし、労働問題をあまり取り扱っていない弁護士に相談すると、的外れのアドバイスをされる恐れもあります。
労働問題の経験が豊富な弁護士に相談してこそ、適切なアドバイスを受けることができるのです。弁護士を探すときには、労働問題に力を入れている法律事務所を把握することがおすすめです。
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5-5. 請求に向けて疑問を解決する
いざ未払い残業代を請求しようと思っても、いろいろ難しい問題があるものです。自分のケースで残業代を請求できるのかどうか、残業代の計算方法、遅延損害金(遅延利息)はいくらなのか、その計算方法はどうすればいいのかなど、疑問がたくさん出てくると思います。
疑問があると手が止まって請求する準備が進まなくなるものです。しかし、残業代の請求権には2年の時効期間があります。悩んでいるうちにも時間が経ち、消滅時効が完成することによって請求できる未払い残業代が減少してしまいます。
だからこそ、なるべく早く弁護士に相談することが重要になります。
6. まとめ
未払い残業代を請求する場合、遅延損害金(遅延利息)も加えて請求できますが、知らなければ請求漏れをしてしまいます。
また請求する方法を知らなければ、会社から金銭を回収することは難しいケースがほとんどです。分からないことも多いかしれませんが、悩んでいる時間だけ時効が進行してしまいます。
時間が経てば遅延損害金(遅延利息)の金額も高くなりますが、肝心の未払い残業代が時効で消滅したのでは意味がありませんので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
ただし弁護士に依頼する場合、残業代請求の成功/不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が通るか分からない中で、弁護士に数十万円を最初に渡すのは抵抗がある方も多いかもしれません。
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