2019/12/25

【弁護士監修】(残業代を請求したい運転手向け)どのように残業代を請求するべきか

執筆者 編集部
残業代関連

運転手の仕事は長時間労働になりがちで、会社側も労働者側も残業代について曖昧なまま仕事を続けているケースがよくあります。
中には「歩合制だから残業代は出ない」「みなし残業代が出ているからそれ以上はもらえない」と思っている方もいるのではないでしょうか。
しかし、運転手であっても残業をすれば、会社は残業代を支払わなければならないことになっています。
ただ、今まで未払いとなっている残業代を取り戻すためには、正しい残業代の計算方法・請求方法を知らなければなりません。そこでこの記事では、運転手の方が残業代を計算・請求する方法をご紹介します。

【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)

監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか

1. 運転手が考えるべき残業代請求のポイント

会社が運転手に残業代を支払わない理由としてよく挙げられるものに「歩合給だから」「みなし残業代を支給しているから」「荷物待ちの時間は休憩時間だから」というものがあります。運転手側も同じように思い込んで、残業代の請求を諦めている方も少なくありません。しかし、これらの場合でも残業をすれば残業代は出ます。

1-1. 歩合給でも残業代は支払われる

歩合給とは、仕事の成果に対して支払われる報酬です。歩合制で働いている運転手は時間で給料を計算するわけではないからといって残業代が支払われないことがよくあります。
しかし、歩合制といっても、労働時間に応じた一定額の保障給のない「完全歩合制」は違法とされています。適法な歩合制は必ず「保障給+歩合給」という給与体系になっています。保障給の部分は時間で計算されるので、法定労働時間を超えて仕事をしたら残業代が発生するのです。
なお、「歩合制の基本給に残業代を含めている」と言って、それ以上の残業代を支払わない会社もあります。たしかに、残業代を歩合制の基本給に含める形で支払う方法もあります。
しかし、この方法をとるためには、基本給のうち通常の賃金の部分と残業代の部分が明確に区別されていることなどの条件があります。条件を満たしていなければ、歩合給に残業代を含めているとは認められないので、残業した時間の分だけ残業代を請求できます。

1-2. みなし残業代制の場合でも、みなし残業時間を超えると残業代は支払われる

運転手の仕事は予定どおりの時間には終わらないのが通常であるため、「みなし残業代」が支給されているケースもよくあります。みなし残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を算出し、その金額を基本給に含むか基本給と併せて支給する形の残業代です。
この支給方法は間違いではありませんが、みなし残業時間としてあらかじめ定めた時間を超えて働いた場合は、別途残業代を請求することができます。
また、みなし残業代が何時間分の残業代に相当するのかをあらかじめ定めないで、基本給に含めて支給している場合は、適切な残業代の支払いとして認められません。この場合は、残業した時間の分だけ全ての残業代を請求することができます。

1-3. 荷物待ちの時間でも残業代は支払われる

トラックなどの運転手の場合は、仕事中に荷物待ちの時間が日常的に発生します。この荷物待ちの時間は休憩時間であるとして残業代を支払わない会社もあります。しかし、休憩時間は労働者が自由に利用できると労働基準法で定められています。
荷物待ちの時間でも、一定の場所での待機を命じられ、荷物が来たらすぐに対応できる態勢を整えておかなければならないのでは、自由に利用できる時間とはいえません。このように荷物待ち中でも時間的・場所的に拘束されている場合は、荷物待ちによって残業時間が発生したら残業代を請求できます。

2. 運転手の残業代請求におけるタイムリミット

残業代の請求権には2年の消滅時効があることに注意が必要です。各給料日の翌日から2年が経つと、その給料日に支払われるはずだった残業代はもう請求できなくなるのです。時間が経てば経つほど時効が進行するので、1ヶ月分ずつ未払い残業代の請求権は時効で消滅していきます。
残業代を未払いにするような会社に入社して2年以上が経っている方であれば、既に時効で消滅してしまった未払い残業代があるはずです。退職した場合は、最後の給料日の翌日から2年が経つと、請求できる未払い残業代がすべて消滅してしまいます。
残業代の時効消滅を防ぐためには、早期に請求をする必要があります。残業代の請求を内容証明郵便の形で会社宛に送付すると、時効をリセットすることができます(但し、その後6ヶ月内に和解するか裁判を起こす必要があるので注意が必要です。)。まずは時効をリセットして、じっくり会社と話し合うのがおすすめです。

3. 運転手が残業代請求する時の証拠の集め方

未払い残業代を請求するためには、まずは証拠を集めることが重要です。証拠がなければ会社に残業代を否認された場合に反論することができませんし、裁判を起こしても勝つことはできません。
そもそも会社に請求する際には、未払い残業代の金額を客観的な証拠に基づいて正確に計算する必要があります。最も重要なのは、何時間残業したのかを証明できる証拠です。その証拠には、以下のようなものがあります

3-1. タイムカード

残業時間を証明する証拠として最も有効なのはタイムカードです。出勤時刻と退勤時刻が正確に記録されていれば、基本的にはそれだけで残業時間を証明することができます。
タイムカードがない場合は、業務日報や運転日報、週報など業務の状況を継続的に日々記載している記録も有効になることがあります。業務時間が日々記録されていれば有力ですが、そうではなくても、業務の内容から業務時間が推計できれば、おおよその残業時間を割り出すことができます。

3-2. 配車票

配車票にはさまざまな形式がありますが、誰が何時から何時までどの車両を使用したのかが記録されていれば、タイムカードと同じように残業時間を証明することができます。予定だけが書かれたものであっても、業務日報などの記載と併せることで残業時間の証明になります。
配車票の他には、タコグラフによる車両の稼働状況の記録も有効です。ただし、最近はデジタル化が一般化しており、デジタコデータは強制的にオフにされる場合があるので、注意が必要です。こまめに記録を取っておくことが重要になります。

3-3. 業務報告のメール・携帯電話の発着信の記録

会社や取引先と業務上のやりとりをメールでしている場合は、送受信の時刻が記録されているので残業時間の証拠になります。携帯電話でやりとりしている場合も、発着信の時刻が記録されているので証拠として有効です。
ただし、通話のみの場合は発着信の記録のみでは、業務上の連絡であることを証明できない場合もあります。その場合も、業務日報の記載など他の証拠と併せることで残業していたことを証明する必要があります。これらの記録は、消去しないで保管しておくことが大切です。

3-4. 配送時刻の記録

物品などを配送した際に配送時刻の記録をしていれば、少なくともその時刻までは仕事をしていたことを証明できます。
ただし、日々正確に記録していないと、証明力が下がってしまいます。記録忘れが多かったり、30分単位の大まかな記録だったりする場合は注意が必要です。できる限り、その都度1分単位で記録してあることが望ましいです。
また、配送の途中で休憩していたのではないかと会社から疑われることもあります。その場合は、業務日報など他の記録と併せて証明する必要があります。

3-5. 車載カメラの記録

運送業の営業車両であれば、ドラレコなどの車載カメラを設置してある場合が多いでしょう。車載カメラには、その車両がいつ・どこを走行していたのかが記録されているので、残業時間を証明することができます。
逐一記録されており、もし必要以上に休憩している場合はそれも記録されているので注意が必要です。車載カメラの時刻が実際の時刻とずれている場合はその点も証明しなければならないので、時刻は常に正確に合わせておきましょう。

3-6. GPS記録

配送先への移動についてGPSの位置情報で記録しておけば、残業時間を証明することができます。スマホアプリ『ザンレコ』は、スマホにダウンロードしておくだけでGPSの位置情報を自動で記録できるのでとても便利です。
車載カメラのように逐一記録を全部見返していつ・どこを走行していたのか確認する必要もありません。

3-7. 残業に関するメモ

配送予定など業務に関することを自分でメモしたり、上司からメモを渡されて業務の指示を受けたりする場合もあるでしょう。このようなメモも残業時間を証明することに役立ちます。ただし、多くの場合はあまり証拠力が高いとはいえません。
ポイントは、どれだけ詳しい内容が記載されているかによります。いつ・どこに配送したのかが分かる記載があることが望ましいです。記載が不十分な場合でも、メールや携帯電話の発着信の記録、車載カメラの記録、GPS記録など客観的な証拠と併せることで残業時間を証明できることもあります。

4. 残業代請求の計算方法

残業代の計算方法を具体的に知らない方も多いのではないでしょうか。残業代を請求するためには、こちらで具体的な金額を正確に計算しておく必要があります。
正当な残業代を支払わない会社に計算を依頼しても、正確な計算は期待できません。運転手の残業代の計算方法は事務職などの場合よりも少し複雑になる場合が多いですが、以下に解説します。

4-1. 計算式

残業代の計算は、基本的には以下の計算式を用います。

「1時間あたりの基礎賃金」×「残業時間」×(1+「割増率」)

1時間あたりの基礎賃金は、例えば、月給制の場合、月の基礎賃金の額を月平均所定労働時間で割って計算します。

割増率は基本的には25%ですが、それより高い割増率が就業規則に定められている場合はそちらに準じます。運転手の場合は深夜労働(午後10時~午前5時)や法定休日労働も多いでしょう。以下の割増率を正確にあてはめて計算しましょう。

種類割増率
時間外労働25%
時間外労働(月60時間を超える分)※50%
深夜労働25%
法定休日労働35%
時間外労働+深夜労働50%
法定休日労働+深夜労働60%

※ただし、中小企業では月60時間を超える分についての+25%の割増賃金の支払は2023年4月までは猶予されています。

歩合制の場合は、固定給部分の計算方法は以上のとおりですが、歩合給部分の計算方法が通常と異なります。

計算式は同じですが、1時間あたりの基礎賃金は「歩合給額÷総労働時間」によって求めます。月平均所定労働時間ではなく、残業時間を含めた総労働時間で割ることに注意してください。

また、歩合給の場合、歩合給には残業時間の時間単価に相当する部分が既に含まれていると考えられているため、固定給のように25パーセントの割増率を加えた125%をかけて計算するのではなく、1時間あたりの基礎賃金と残業時間に25パーセントの割増率のみをかけて計算することにも注意が必要です。

歩合制の場合の残業代計算式=「1時間あたりの賃金」×「残業時間」×「割増率」

4-2. 荷待ち時間も労働時間に含まれる

前述したとおり、荷待ちの時間でも、一定の場所での待機やすぐに対応できる状態に整えておくことを命じられている時間は、労働時間となります。
それまで休憩時間として扱われていた荷待ち時間を労働時間にカウントすると、残業時間が相当増える方が多いでしょう。月の残業時間が30時間増えれば、残業代が5万円以上増えることもよくあります。荷待ち時間も労働時間にカウントできる場合は、忘れずにカウントしましょう。

5. 運転手が残業代請求するためには準備が大切

残業代を請求するためには、入念な準備が大切になります。証拠がなければ会社との交渉もスムーズにできず、裁判でも勝つことはできません。
残業代を正確に計算することも必要です。その前提として、残業代を請求できるケースと請求できないケースも知っておかなければなりません。さらに、請求する方法も知っておく必要があります。

5-1. 法律に関する知識を身に付ける

1日に何時間以上働くと残業代が発生するのか、残業代の割増率はいくらなのか、深夜労働や休日労働の割増賃金はどのように計算するのかなどについて、法律の知識を身につけておかないと正しく残業代を請求することはできません。残業代が出るケースと出ないケースを判断するためにも知識が大切です。
労働に関する法律の知識がほとんどないまま残業代を請求しても、会社と対等に交渉することは難しいでしょう。会社に顧問弁護士がいる場合は、太刀打ちできないことにもなりかねません。

5-2. 過去の裁判例をチェック

法律に関する知識は重要ですが、実は法律を調べるだけでは残業代請求の準備としては不十分です。残業代が出るケースと出ないケースは、法律を見るだけでは判断できない場合もあるのです。そんな場合は、過去の裁判例をチェックする必要があります。
法律では不明確な部分も裁判例を調べれば、どんなケースで残業代が出るのか、いくら残業代が出るのかが分かります。最近はインターネット上で過去の裁判例が紹介されていることが多く、検索することが容易になっています。自分のケースで残業代が出るかどうかが法律を見ても分からない場合は、過去の裁判例をチェックしましょう。

5-3. 普段から証拠を集める習慣を身に付ける

残業代を請求するためには証拠を集めることが重要であることは前述しましたが、いざ証拠を集めようと思っても、すぐに集めるのは難しい場合も多いものです。
適切な証拠が職場にない場合は、自分で残業時間や業務内容を記録するなどして証拠を集める必要があります。職場に証拠がある場合でも、古い記録は廃棄されたりしてなくなってしまうこともあるでしょう。証拠は普段から習慣的に集めることが大切です。今からでもしっかり集めていきましょう。

5-4. 弁護士への質問をまとめること

自分で残業代を請求する準備をするのが難しいと思われる場合、弁護士に相談するのがおすすめです。法律の知識や裁判例を調べることが大切だといっても、一般の方には難しいのも無理はありません。そんなときは弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。
ただし、弁護士の相談は時間が限られているので、要領よく質問しないと適切なアドバイスを受けられない恐れがあります。事前に質問する事項をまとめて、一つでも多くの疑問を解消するようにしましょう。

5-5. 残業代請求に力を入れている法律事務所探し

弁護士にも得意分野と不得意分野があるため、どんな弁護士に相談しても残業代の問題について適切なアドバイスが受けられるわけではありません。相談するなら残業代請求の実績が豊富な弁護士に相談しないと、問題を解決できない恐れもあります。
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残業代請求が不安な人は、ぜひ一度労働問題が得意な弁護士にご相談ください。

6. まとめ

運転手であっても残業代は請求することができます。残業代が曖昧になっているケースが多い業界であるため、未払い残業代が多く積み重なっている方も多いはずです。
ただ、運転手の場合は事務職など他の職種に比べて計算方法が複雑で、残業代が出るケースと出ないケースの判断が難しいなど、さまざまな問題もあります。
疑問を抱えて一人で悩んでいると、時効が進んで請求できる残業代が減少していき、消滅する恐れがあります。早めに弁護士に相談して未払い残業代を請求することが大切です。

ただし弁護士に依頼する場合、残業代請求の成功/不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が通るか分からない中で、弁護士に数十万円を最初に渡すのは抵抗がある方も多いかもしれません。

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