2019/03/06

管理職でも残業代はもらえる!?名ばかり管理職とは(弁護士監修)

執筆者 編集部
残業代関連

「名ばかり管理職」という言葉に聞き覚えのある方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の記事は、その「名ばかり管理職」の方のお役に立てるような内容です。

1. 管理職でも残業代が貰えることがほとんど

「あなたは管理職だから残業代は出ない」と会社から説明されて、残業代を払ってもらっていないという方は多くいらっしゃると思います。しかし、実は管理職のなかで、残業代を支払わなくてもよいとされている方、すなわち「管理監督者」にあたる方は本当に一握りです。つまり、ほとんどの管理職の方は残業代をもらうことが出来るのです。以下では「管理職」や「管理監督者」、「名ばかり管理職」について説明します。

1-1. 管理職とは

「管理職」とは、会社組織の全体または一部を管理する役職のことを指します。

ただし、「管理職」というのは法律で決まっている役職ではないため、具体的にどの役職から「管理職」として扱われるかは、その会社によります。「課長」以上を管理職として扱う会社が多いようですが、「係長」でも管理職として扱っている会社もあります。

「管理職」とは、法律で決まっている公式な言葉ではないというのがポイントです。

1-2. 管理監督者とは

最初に、「管理職」と残業代をもらう権利がない「管理監督者」は同じように思えますが、実は全く異なるものです。

1-1のとおり「管理職」とはざっくりとした広い定義であるのに対して、「管理監督者」とは労働基準法において、「管理職」のなかでも、おおむね、以下の①~④すべての条件を満たす一握りの方々のことを指したものです。(以下の①~④の条件は、わかりやすさを重視してまとめた参考の基準です。)

①会社等の経営判断に参画しているか、特定の部門全体を統括していること
②部下の採用・昇格・解雇の決定権限がある等、労務管理上の相当の権限があること
③自分の出勤時刻、退勤時刻を自分の裁量で自由に決められること
④他の従業員と比べて、相当の金額差がある高額の給与が支給されていること(基本的には、賞与や各種手当を含めた給与の金額が、役職が1つ下の従業員より相当に高いことが必要だと考えられています。例えば、その地域の平均年収を下回っているような場合には、この④の要件が認められない場合が多いでしょう。)

なお、「管理監督者」に該当する方については、労働基準法(41条2号)で残業代を支払わなくてもよいことになっているので、残業代が出ないという場合がほとんどです。一方で、この条件を満たさない「管理職」の方は、法律で残業代は支払わなければいけないことになっているので、他の法律上の例外に当たらない限り残業代を支払ってもらう権利があります。このとき、就業規則で「管理職に残業代は払わない」といった旨が記されていたとしても、労働基準法で定められた基準に達しない労働条件の労働契約は無効となるので、無効部分に関しては、労働基準法の定める基準が適用されます(労基法13条)。

「管理職」と「管理監督者」、これらの2つは同じようなものと勘違いされがちですが、実際は全く異なるのです。

また、「管理監督者」だからといって、すべての手当が出ないというわけではありません。「管理監督者」の方も、深夜労働(22~翌5時の労働)をした場合には、手当を受け取ることが出来ます。

1-3. 名ばかり管理職とは

「名ばかり管理職」とは、1-2で説明した「管理監督者」には当てはまらないにも関わらず、「あなたは管理職だから」と言われて、本来もらえるはずの残業代を未払いにされている管理職の方のことを指します。

「名ばかり管理職」で残業代を払ってもらえず、損をしているという方はたくさんいらっしゃいますが、そういった方はきちんとした手順を踏んで残業代請求をすれば、お金を払ってもらえることがほとんどです。お悩みの方は、弁護士に依頼をして残業代請求をするといいでしょう。(弁護士への依頼をおすすめする理由については5で詳しく説明します。)また、自分は「管理監督者」に該当するのか否か等、不明な点は弁護士に相談してみるとよいでしょう。

もう一つ、残業代請求をするにあたっておすすめするのは、「ザンレコ」というアプリの利用です。「ザンレコ」とはGPSを利用して残業時間を計測し、さらに自動で残業代計算までしてくれるという無料のスマートフォンアプリです。このアプリは、単に便利なだけではなく、実際に残業代請求をする際に、証拠として大いに役立つので、おすすめです。

なお、36協定が締結されている場合でも、管理職の方は36協定の対象になっていないかと思います。

しかし、36協定の締結は会社が守らなければならないルールであって、36協定が適切に締結されていないことで、従業員が残業代をもらえなくなるということはありません。そのため、36協定の対象となっていない「名ばかり管理職」の方は、36協定とは関係なく、残業代を払ってもらうことができます。

また、36協定の上限を超えても残業代を払ってもらえます。(詳しくはこちら

(編集部注:残業代を今すぐ請求したいという方、自分は「管理監督者」に該当するのか否か確認したいという方は、残業代・解雇弁護士サーチで、労働問題を扱っているお近くの弁護士を検索することができます!)

2. どの役職なら「名ばかり管理職」にあたり、残業代がもらえるのか

「管理監督者」に該当するかどうかは、役職の名称ではなく、実際の業務実態や権限の内容によって決まります。そのため、位の高い役職の方でも、実際の業務実態や権限の内容が条件を満たさない場合には、「管理監督者」には該当せず、残業代の請求ができます。

ここでは、一般的にどのような役職の方が「名ばかり管理職」にあたる場合が多く、残業代を請求できるのか具体的に説明します。(※ ここでの説明はあくまで一般論ですので、すべての方に必ず当てはまるもというわけではありません。)
なお、「管理監督者」に該当する方であっても、深夜(午後10時~午前5時)に働いた場合は、深夜労働手当を請求できます。

2-1. 係長や課長などの場合

まず、係長や課長の方のうち、多くは「管理監督者」に該当せず、「名ばかり管理職」に当たる場合が多いでしょう。つまり、ほとんどの係長や課長の方は残業代を請求することが可能です。

管理職の方が「管理監督者」に該当する条件については、労働基準法上、明確な規定はありませんが、東京地裁や東京高裁の裁判例においては、おおむね、以下の①~④の全ての条件を満たす場合であると考えられているようです。

①少なくともある部門全体を統括している、または全社的な経営判断に参画していること
②部下に対する労務管理上の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること
③自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること
④管理職手当等の特別手当が支給される等、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること

一般的に、係長や課長の方で、上記①~④全てを満たしているという方は少ないと考えられます。係長や課長の方は、上司の方からの指示に基づいて働いている方が多いのではないでしょうか。また、自分の好きなように出退勤ができるという方もかなり少ないと思います。これらの条件から、係長や課長の方が「管理監督者」に当てはまることはほとんど無いとお分かりいただけるでしょう。

係長や課長と同等の役職(チームのマネージャー等)やそれ以下の役職(主任等)についても、同様に、「管理監督者」には当てはまらない場合がほとんどでしょう。

2-2. 部長の場合

部長の方の場合、前述の係長や課長の方とは違い、「管理監督者」と「名ばかり管理職」どちらに当てはまるかは権限の内容等によって変わるでしょう。つまり、残業代を請求できる方もいれば、できない方もいるということです。

「管理監督者」に当てはまるか否かの判断基準は、おおむね、2-1に記載した①~④の条件をすべて満たすかどうかです。部長の方は、具体的な自身の権限が、条件を満たしているのかどうかをチェックして、自分が「名ばかり管理職」なのか、「管理監督者」なのか判断してください。

判断が難しい場合は、1-3でも申し上げたとおり、弁護士に聞いてみるとよいでしょう。

2-3. 店長の場合

店長の方の場合、「管理監督者」と「名ばかり管理職」のどちらにあてはまるかは、お店の規模等によって変わってくるでしょう。

多数の店舗があるチェーン店の店長の場合、おおもとの会社を運営する方や、一定地域の店舗を統括をする方など、上司の指示に従って働くことがほとんどだと思われます。また、チェーン店の店長は、その他の面に関しても、先ほどから記載している、裁判例の「管理監督者」と認められるために満たすべき①~④の条件を満たさないと考えられます。つまり、チェーン店の店長は、「名ばかり管理職」であることが多く、ほとんどの場合に残業代を請求できるでしょう。

一方で、店舗が1店舗~数店舗といった小規模なお店の店長の場合、「管理監督者」か「名ばかり管理職」かは権限の内容等によって変わるでしょう。それは、1店舗だけ、あるいは数店舗のみの小さなお店の場合、店長が大きな権限を持っていて、「管理監督者」の条件①~④を満たしているということが十分に考えられるためです。

2-4. スタッフ職の場合

旧労働省の通達では、いわゆるスタッフ職であっても、企業内における処遇の程度によっては、「管理監督者」に該当するとされています(昭和63年3月14日基発150号)。具体的には、スタッフ職の方でも、①~④の条件を全て満たす職員と同等の地位にある場合には、「管理監督者」に該当する可能性があると解釈されています。

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3. 「名ばかり管理職」と裁判所で判断された事例

では、ここでは実際に、会社が「管理監督者」に当たると主張した多くのケースで、裁判所が「管理監督者」に当たらない(「名ばかり管理職」である)と判断した事例を2つ紹介します。

3-1. 広告会社の企画営業部長の事例

ある広告会社の企画営業部長(その後、同部長代理)が、「管理監督者」には当たらないと判断され、残業代請求が認められました(東京地裁平成24年7月27日判決)。

この方は、7名の部下がいましたが、(1)会社の経営方針を決定する役員会のメンバーではなかった上、企画営業部のトップである本部長は社長が兼任していたこと、(2)社員の採用・昇給・賞与の決定は実質的に社長や役員会が決めていたこと、(3)タイムカードで出退勤管理を受けていて、始業時間に間に合わない際は半日有給の利用を促されたこと等、(4) 給与については、役職手当等の名目で月20万円を支給されていたが、残業時間が月100時間を優に超えていたことに照らすと、十分な金額とは評価でいないこと等から、「管理監督者」に該当しないと判断されました。

3-2. 全国チェーンの飲食店の店長の事例

ある全国的な飲食チェーン店の店長が、「管理監督者」には当たらないと判断され、残業代請求が認められました(東京地裁平成20年1月28日判決)。

この方は、店舗運営に関する一定の権限やアルバイトの採用・時給額の決定の権限を持っていましたが、(1)会社の経営方針の決定には関与していない上、店舗の営業時間や販売商品については本社が決定していたこと、(2)社員の採用・人事考課等の決定権限がないこと、(3)店長であっても現場の仕事をする必要がある結果、長時間労働を余儀なくされており、労働時間に関する裁量があったとはいえないこと、(4)給与については、店長の中でも評価が低い10%は、店長でない従業員より低額であったこと等から、「管理監督者」に該当しないと判断されました。

以上で紹介した以外にも、「名ばかり管理職」であると認定した裁判例はたくさんあります。

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4. 「管理監督者」であると判断された事例

他方で、裁判において「管理監督者」に該当すると判断された方もいます。その事例も以下で1つ紹介したいと思います。

ある証券会社の大阪支店支店長が、「管理監督者」に該当すると判断されました(大阪地裁平成20年2月8日判決)。

この方については、(1)支店の経営方針を定め、30名以上の部下を統括していたこと、(2)社員の中途採用や支店内の異動の決定権限があったこと、(3)出退勤時間の管理を受けていないこと、(4)月給として職階に応じた57万円に加えて、職責手当25万円を支給されており、部下の給与より格段に高いこと等から、「管理監督者」に該当すると判断されました。

5. 残業代請求を検討している方は、弁護士への相談がおすすめ

「名ばかり管理職」にお悩みで、残業代請求を検討しているという方には、弁護士への相談をおすすめします。弁護士への相談をすすめる理由には、以下の4つがあります。

まず1つ目は、弁護士に相談すると、自身が管理監督者に該当するのかどうか、具体的事実に応じてアドバイスをしてもらうことが出来るからです。自分では、判断が難しいことも、専門の弁護士に相談することで適切なアドバイスがもらえます。

2つ目は、会社に払ってもらえる金額が高くなる可能性が高いからです。弁護士は法律の専門家なので、あなたがサービス残業してきた分の残業代を正しく計算し、的確に法的主張や証拠の提示ができます。また、弁護士が請求をすることで、会社に舐められることも無くなります。

3つ目は、弁護士に依頼すると短期間で払ってもらえるからです。弁護士に依頼することで、残業代請求を会社に放置される可能性がぐっと低くなります。また、放置された場合でも労働審判等により残業代を払ってもらうことができます。

4つ目は、交渉や書面作成の手間がかからないからです。弁護士に依頼すれば、あなたが会社と交渉したり、書面を作ったりする必要がなくなります。あとは弁護士に任せておけば簡単に解決するケースがほとんどです。

また、弁護士に依頼をするにあたって、残業の証拠が手元にあるとより良いでしょう(証拠が手元になくても、依頼や残業代請求はできる場合もあります)。

残業の証拠として、よくタイムカードなどが挙げられますが、「ザンレコ」というアプリも使えます。1-3でも紹介しましたが、このアプリは残業時間の記録や金額計算に加えて、証拠としても役立ちます。まだ利用していないという方は、ぜひ利用してみてください。

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いつかは残業代を請求したいけれど、証拠がないという方は、ザンレコで証拠を残しておけば、退職後などに残業代を請求できます。

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