2018/11/21

間違いない!残業代計算の仕方②(弁護士監修、変形労働時間制の場合)

執筆者 編集部
残業代関連

前回の記事では、最も一般的な働き方(定時が毎日同じ)の場合の残業代計算の仕方について説明をしました。今回は、変形労働時間制の場合の残業代計算の仕方について解説していこうと思います。変形労働時間制は、その特殊な働き方から、残業代の計算方法も難しいのではないかとお考えの方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、実際にはそんなことはありません。変形労働時間制の残業代計算は実は簡単に出来るということが、この記事を読んでご理解いただけると幸いです。

1. 変形労働時間制とは

「変形労働時間制」とは、短時間しか働かない期間がある代わりに、他の期間に1日8時間以上あるいは、1週間で合計40時間以上残業代なしで働く期間がある制度のことです。言い換えると、少ししか働かない日を設ける代わりに、残業代なしで法定労働時間(※)を超えて働く日、あるいは週を作れる制度です。

変形労働時間制では、短時間働く期間と、長時間働く期間をセットで1つの期間と考えます。この1つの期間には、1か月の場合、1年の場合、1週間の場合の3種類があります。それぞれの期間について、以下で簡単に紹介します。

※ 法定労働時間とは、法律で定められた1日あるいは、1週間に働く時間の限度のこと。1日8時間、1週間で原則40時間以下と定められています。

1-1. 1つの期間が1か月の制度

短時間働く期間と長時間働く期間をセットにした1つの期間が1か月の制度を1か月単位の変形労働時間制といいます。

これは、1か月(あるいは1か月以内)の期間で、労働時間を1週間あたり平均40時間以下(※)とすることを条件に、特定の週や特定の日に法定労働時間(1日あたり8時間あるいは1週間あたり40時間)を超えて労働させることができるという制度です。
1か月を平均して労働時間が1週間当たり40時間以内であれば、1日の所定労働時間を8時間超にすることができます。

※ 法定労働時間の範囲内。ただし、法定労働時間が週44時間となる特例(労基法40条、労基法施行規則25条の2第1項)が適用される場合は、1週間あたり平均44時間以下。法定労働時間が週44時間となる特例については、こちらの記事をごらんください。

この制度は特定の日や、特定の週に仕事が集中している際によく用いられます。

1-2. 1つの期間が1年の制度

1つの期間が1年間の制度を1年単位の変形労働時間制といいます。

これは、1年(あるいは1年以内)の期間で、労働時間が1週間あたりに平均40時間以下(法定労働時間の範囲内)であることを条件に、特定の週や特定の日に法定労働時間(1日あたり8時間あるいは1週間あたり40時間)を超えて労働させることができるという制度です。
1年を平均して労働時間が1週間当たり40時間以内であれば、1日の所定労働時間を8時間超にすることができます。

ただし、1年単位の変形労働時間制の場合は、1日の所定労働時間は原則10時間まで、1週間の所定労働は52時間までにしなければならない等の制限があります。

1-3. 1つの期間が1週間の制度

1つの期間が1週間の制度を1週間単位の変形労働時間制といいます。

これは、規模30人未満の小売業、旅館や飲食店において、1週間の所定労働時間(会社の規則上の労働時間)が合わせて40時間以下(法定労働時間の範囲内)であることを条件に、毎日の所定労働時間をばらばらに定めることができるという制度のことです。1週間の所定労働時間が40時間以内であれば、1日の所定労働時間を8時間超にすることができます。

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2. 変形労働時間制における残業代の計算方法

変形労働時間制でも、一般的な働き方の場合と同様に

残業代=残業時間×1時間当たりの基礎賃金×割増率

で求めます。(一般的な労働体制の残業代の求め方は前回の記事を参照してください。)

2-1. 変形労働時間制の場合の残業時間

変形労働時間制の場合も、一般的な働き方と同様に所定労働時間(※)を超えて働いた時間が残業時間になります。法定休日に働いた場合には、その労働時間すべてが残業時間になります。

※ 所定労働時間とは、会社が就業規則などで法定労働時間の範囲内で定めた労働者が(残業代なしで)働く時間のこと。

2-2. 変形労働時間制の場合の1時間あたりの基礎賃金の求め方

"1時間あたりの基礎賃金"とは、基本的に残業1時間につき何円もらえるかという金額のことです。1時間あたりの基礎賃金は、基礎賃金の額を1時間あたりに割って計算します。これは変形労働時間制の場合も、一般的な働き方の場合と同様です。

基礎賃金には何のお金が含まれるか等、詳しいことについては前回の記事の3-2を参照してください。

2-3. 変形労働時間制の場合の残業代の割増率

法定労働時間外の残業は、割増率が1.25倍(深夜労働にも該当する場合は1.5倍)になります。変形労働時間制において、法定労働時間外の残業となる場合にはどんなときがあるか、下の表にまとめました。

1日について、①所定労働時間が8時間を超える場合は実際に働いた時間がその所定労働時間を超えたとき、②所定労働時間が8時間以内の場合は実際に働いた時間が8時間(法定労働時間)を超えたとき
1週間について、①所定労働時間が40時間を超える場合は実際に働いた時間がその所定労働時間を超えたときで、②所定労働時間が40時間時間以内の場合は実際に働いた時間が40時間(法定労働時間)を超えたとき
変形期間となる1つの期間(1か月や1年など)について、実際に働いた時間がその期間の日数÷7×週法定労働時間(40時間)を超えたとき

※ 1か月単位の変形労働制の場合、特例(労基法40条、労基法施行規則25条の2第1項)により1週間の基準が40時間ではなく44時間となる場合があります。この特例が適用されている場合は、40時間を44時間に置き換えて考えます。

※ 大企業では、法定休日以外の残業時間が1か月あたり60時間を超えた場合、その60時間を超えた分の残業については、割増率が高くなります。この場合、1か月あたり60時間を超える部分の割増率は1.5倍として計算します。(深夜労働にも該当する場合は1.75倍)詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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<具体例>1時間あたりの基礎賃金が1400円で、土日休みの週休2日、変形の対象となる期間は1か月ごととされている人を例にとって考えてみます。
1か月が28日間となる日曜始まりの月に、所定労働時間が

月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
1週目 8時間 8時間 8時間 9時間 7時間
2週目 8時間 9時間 6時間 8時間 7時間
3週目 8時間 8時間 7時間 10時間 8時間
4週目 6時間 8時間 8時間 8時間 7時間

の合計156時間で、実際の労働時間が

月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
1週目 8時間 8時間 8時間 9時間 7時間
2週目 8時間 9時間 8時間 9時間 8時間
3週目 8時間 8時間 7時間 10時間 8時間
4週目 8時間 9時間 8時間 8時間 8時間

だったとします。

この場合、1週目には特に残業はありません。

2週目には、まず水曜日は、所定労働時間が8時間(法定労働時間)以内で、8時間の範囲で残業しているため、2時間の法定内残業があります。また、木曜日は、所定労働時間が法定労働時間(8時間)どおりで、8時間を超えて残業しているため、1時間の法定外残業があります。
金曜日については、月曜日~金曜日の所定労働時間は法定労働時間(1週間あたり40時間)の範囲内ですが、月曜日~金曜日の労働時間が合計42時間で法定労働時間(1週間あたり40時間)を2時間越えているため、1週間で2時間の法定外残業があることになります。このうち、1時間は既に木曜日に法定外残業になっているため、金曜日には残り1時間の法定外残業が認められます。

3週目と4週目もそれぞれみていくと、3週目は特に残業はありません。

しかし4週目には、月曜日に所定労働時間が8時間(法定労働時間)以内で、8時間の範囲で残業しているため、2時間の法定内残業があります。火曜日には、所定労働時間が法定労働時間(8時間)どおりで、8時間を超えて残業しているため、1時間の法定外残業があります。
金曜日については、この月の労働時間が合計164時間で「月の日数÷7×40時間」(1週間あたり平均40時間)を4時間越えているため、この月全体で4時間の法定外残業があることになります。このうち、3時間は既にこれまでの日に法定外残業としてカウントされているため、4週目の金曜日には残り1時間の法定外残業が認められます。

上記のように、法定労働時間内の残業は、2週目水曜日の2時間と、4週目月曜日の2時間の2時間の合計4時間です。また、法定時間外の残業は、2週目木曜日の1時間(1日あたり8時間を超えている)と、2週目金曜日の1時間(1週間あたり40時間を超えている)、4週目火曜日の1時間(1日あたり8時間を超えている)と金曜日の1時間(1か月全体で月の日数÷7×40時間を超えている)の合計4時間です。

したがって、残業代の計算式は
1400円×4時間=5600円(法定労働時間内の残業)
1400円×4時間×1.25=7000円(法定労働時間外の残業)
⇒5600円+7000円=12600円(合計)となり、発生する残業代は12600円になります。

※ 法定休日に働いた時間は、割増率が1.35倍(深夜労働でもある場合は1.6倍)になります。

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