2018/02/24

残業にまつわる「時間」の知識(弁護士執筆)

執筆者 編集部弁護士
残業代関連

残業代について検討していると、1日8時間、週40時間、36協定、過労死ライン80時間・100時間など、いろいろな時間や数字が登場し、混乱してしまう方も多いのではないでしょうか。
今回は、残業代請求にまつわる「時間」について整理して説明します。

1. 時間内労働の上限にまつわる「時間」(「8時間」「40時間」「44時間」)

労働時間は、法律で上限が定められています。1日に8時間以内、1週間に40時間以内です。常時使用する労働者が10人未満で、法定の一定の業種の場合には、1日に8時間以内、1週間に44時間以内となります。
会社と労働者との間で36協定(※)が締結されていない場合、会社はこの上限時間を超えて労働者を労働させることはできません。
なお、裁量労働制、変形労働時間制やフレックスタイム制の場合には、法律上、この上限に対する例外が定められています。

※36協定とは、会社が労働者に残業を命じるために、労働組合等との間で結ばなければならない労使協定のことをいいます。労働基準法36条が根拠条文であるため、一般的に36協定と呼ばれています。

2. 時間外労働(残業)にまつわる「時間」

2-1. 時間外労働の上限にまつわる「時間」(「15時間」「45時間」「360時間」)

労働時間に上限があること、会社と労働者との間で36協定が締結されていない場合には会社は労働時間の上限を超えて労働者を労働させることはできないことは、1.で説明しました。
一方、会社と労働者との間で36協定が締結されている場合には、会社は、労働時間の上限を超えて、労働者を残業させることができます。
しかし、36協定が締結されていても、会社が労働者を残業させることができる時間には上限があります。厚生労働大臣が定める基準によって、36協定の内容が規制されているからです。どのような規制があるかについては、これから説明します。

2-1-1. 厚生労働大臣が定める基準

厚生労働大臣が定める基準では、(1)「36協定で定める1日を超えて3か月以内の期間」と(2)「1年間」の2つの期間について、それぞれ残業時間(法定労働時間外の労働時間)の上限を定めることとされています。そして、会社は、臨時的かつ特別な事情がない限り、これらの上限を超えて労働者を残業させてはならないことになっています。

2-1-2. 36協定で定める1日を超えて3か月以内の期間の残業時間の上限

「36協定で定める1日を超えて3か月以内の期間」としては、「1週間」か「1か月」という期間が定められることが比較的多いといえます。
「36協定で定める1日を超えて3か月以内の期間」が1週間の場合は、1週間あたりの残業時間の上限が15時間となります。
また、「36協定で定める1日を超えて3か月以内の期間」が1か月の場合は、1か月あたりの残業時間の上限が45時間となります。
このほか、1週間、1か月以外の「36協定で定める1日を超えて3か月以内の期間」についても、例えば以下のように、残業時間の上限が定められています。

定められた期間残業時間の上限
2週間27時間
4週間43時間
2か月81時間
3か月120時間

2-1-3. 1年間の残業時間の上限

1年間の残業時間の上限は、360時間と定められています。

2-1-4. 1年単位の変形労働時間制の場合

1年単位の変形労働時間制の場合には、2-1-2.と2-1-3.で説明した上限時間よりも若干短い上限時間が定められています。
具体的には、1年間の残業時間の上限が320時間になり、「36協定で定める1日を超えて3か月以内の期間」の残業時間の上限が例えば以下のようになります。

定められた期間残業時間の上限
1週間14時間
2週間25時間
4週間40時間
1か月42時間
2か月75時間
3か月100時間

2-1-5. 臨時的かつ特別な事情がある場合(特別条項)

これらの上限時間に関して、36協定に特別条項が定められることがあります。この特別条項があると、臨時的かつ特別な事情がある場合には、会社はこれらの上限時間を超えて労働者を残業させることができます。
もっとも、臨時的かつ特別な事情な事情があると認められるのは、予算・決算業務、ボーナス商戦に伴う業務の繁忙、納期のひっ迫、大規模なクレームへの対応、機械のトラブルへの対応などの限られた場合だけです。
また、これらの上限時間を超えて残業させることができる回数は、1年のうち半分までとされています。したがって、例えば「36協定で定める1日を超えて3か月以内の期間」が1か月である場合、上限時間を超えて残業させることができるのは、1年のうち6回までになります。
当然のことながら、この上限時間を超えたとしても、超えた分を含めて残業代を払ってもらうことができます

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2-2. 残業代の割増率にまつわる「時間」(「60時間」)

法定労働時間を超える残業をした場合には、残業時間に1時間あたりの基礎賃金を掛け、さらに1.25の割増率を掛けた金額で残業代を払ってもらえるのが原則です。詳細は、「意外と知らない!? 正しい残業代の計算方法」で説明しました。
このように、割増率は原則1.25です。しかし、今のところは大企業だけですが、法定休日の労働時間以外の残業時間が1か月で60時間を超えた場合には、その60時間超の部分については、割増率を1.5として計算した金額を払ってもらえます。つまり、法定休日の労働時間以外の残業時間が1か月で60時間を超えると、それ以降の残業については、より高い金額の残業代が発生します。

2-3. 労災認定にまつわる「時間」(「80時間」「100時間」「120時間」「160時間」)

長時間の残業は、健康に悪影響を与えることがあります。長時間の残業が原因での脳・心臓疾患や精神障害は、労働災害(労災)にあたります。厚生労働省は、脳・心臓疾患や精神障害の労災認定について通達を出しており、その通達では、残業時間をどのように参考にするかということが述べられています。

2-3-1. 脳・心臓疾患に関する通達と過労死ライン

脳・心臓疾患の労災認定に関する厚生労働省の通達では、脳血管疾患・虚血性心疾患等を発症した労働者の残業時間が次のいずれかに該当する場合には、業務と発症との関連性が強いとされています。

発症前1か月間の残業時間がおおむね100時間を超えること
発症前の2か月平均・3か月平均・4か月平均・5か月平均・6か月平均のいずれかで、1か月間の残業時間がおおむね80時間を超えること

この残業時間に該当するライン、つまり、1か月間に100時間、あるいは2か月間から6か月間にわたって1か月あたり80時間という残業時間のラインのことを、一般的に過労死ラインと呼んでいます。
もっとも、現状では、過労死ラインを基準として残業時間が規制されているわけではありません。

2-3-2. 精神障害に関する通達

精神障害の労災認定に関する厚生労働省の通達では、精神障害を発症した労働者の残業時間が次のいずれかに該当する場合には、業務による強い心理的負荷があったと基本的に認められることになっています。

発症前1か月間の残業時間がおおむね160時間以上を超えること
発症前2か月間の残業時間が、1か月あたりおおむね120時間以上であり、業務内容からその程度の残業が必要だったこと
発症前3か月間の残業時間が、1か月あたりおおむね100時間以上であり、業務内容からその程度の残業が必要だったこと

現状ではやはり、これらの時間を基準として残業時間が規制されているわけではありません。

2-4. 働き方改革による法改正の予定

今般、「働き方改革」として、労働基準法等の法改正が検討されています。この法改正で、これまで説明してきた事項についても、一部が改正される予定です。

2-4-1. 残業時間の上限

まず、法改正により、残業時間の上限が労働基準法で定められることが予定されています。これまでは、残業時間の上限については、厚生労働大臣の定める基準には規定がありましたが、労働基準法にはありませんでした。
改正後の労働基準法では、残業時間について、1か月あたり45時間、1年あたり360時間が、原則として上限とされる予定です。
また、過労死ラインを踏まえて、臨時的かつ特別な事情がある場合でも、残業時間は、1か月で100時間、2か月平均・3か月平均・4か月平均・5か月平均・6か月平均でそれぞれ1か月あたり80時間、1年で720時間を上限とすることが定められる予定です。

2-4-2. 残業代の割増率

働き方改革による法改正では、大企業と同様に、中小企業でも、法定休日の労働時間以外の残業時間が1か月で60時間を超える場合に、その60時間超の部分については、割増率を1.5として計算した金額を払ってもらえるようになることが、予定されています。

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3. 休憩にまつわる「時間」(「45分」「1時間」)

労働時間が6時間を超える場合には、労働の途中で必ず休憩時間が与えられます。
労働時間が6時間を超えて8時間以内の場合には、最低45分の休憩時間が与えられます。労働時間が8時間を超える場合には、最低1時間の休憩時間が与えられます。
会社の就業規則上は休憩時間の定めがあっても、実際には労働者が休憩をとれていない場合には、休憩をとれなかった時間は労働時間として計算されることになり、その時間について残業代を払ってもらうことができます。

(この記事は、2018年2月21日時点での法令を前提にしたものです。)
弁護士 戸田 順也

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