2017/10/13

裁量労働、固定残業代、管理職、年俸制だから残業代が出ないはブラック企業のウソ!?本当はもらえる残業代の解説(弁護士執筆)

執筆者 編集部弁護士
残業代関連

会社から「うちは○○時間のみなし残業だから残業代は払わない」「管理職には残業代は払わない」「年俸制だから残業代は払わない」などという説明を受けて、そういうものなんだと鵜呑みにしていませんか?
ちょっと待ってください。法律的にはその説明は嘘で、本当は残業代をもらえるかもしれません。

(編集部注:本当は私も残業代をもらえるのかも?と思ったら、残業代・解雇弁護士サーチでお近くの弁護士に相談してみよう!)

1. 実は裁量労働制は法律上の要件を満たしていないことが多い

「みなし残業」や「みなし労働」という場合に一つ考えられるのは、裁量労働制です。
裁量労働制とは、実際の労働時間数にかかわらず一定の労働時間数だけ労働したものとみなす制度です。裁量労働制が法律上の要件を満たしていれば、実際には長時間の残業をしていたとしても、会社は決められた定額の給与を払えばそれで済むことになります。この場合、残業代を別途もらうことはできません。
しかし、結論からいえば、会社が裁量労働制を採用していると説明していても、実は裁量労働制は法律上の要件を満たしていないことが多くあります。裁量労働制が法律上の要件を満たしていない場合には、裁量労働制は無効となり、残業した労働時間分の残業代が全てもらえます。

1-1. 法律上認められている裁量労働制は2種類だけ

裁量労働制は、法律上、高度に専門的な業務と企画的な業務の2種類のみ認められています。高度に専門的でない業務・企画的でない業務については、法律上、裁量労働制とすることはできません。
高度に専門的な業務に認められている裁量労働制を、専門業務型裁量労働制といいます。また、高度に企画的な業務に認められている裁量労働制を、企画業務型裁量労働制といいます。

1-1-1. 専門業務型裁量労働制の要件

専門業務型裁量労働制は、高度に専門的な業務に関する裁量労働制です。
専門業務型裁量労働制の対象となる業務は、法令で細かく定められています。法令が定めている専門業務型裁量労働制の対象業務は、次の表のとおりです。

新商品・新技術の研究開発の業務
人文科学・自然科学の研究の業務
情報処理システムの分析・設計の業務
(※単にプログラムの設計・作成を行うだけのプログラマーの業務は含まれません。)
新聞・出版・放送番組の取材・編集の業務
(※カメラマンの業務や単なる校正の業務は含まれません。)
衣服・室内装飾・工業製品・広告等の新たなデザインの考案の業務
放送番組・映画等のプロデューサー・ディレクターの業務
(※制作全般を総括したり現場の制作作業の統括をしたりする業務である必要があります。)
コピーライターの業務
システムコンサルタントの業務
インテリアコーディネーターの業務
ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(※具体的指示に基づき裁量なくブログラミングをする業務は含まれません。)
証券アナリストの業務
(※ポートフォリオを構築・管理する業務や、専らデータを入力・整理する業務は含まれません。)
金融商品の開発の業務
(※金融サービスを企画立案・構築する業務や、専らデータを入力・整理する業務は含まれません。)
大学における教授研究の業務
(※医師等が一定の時間帯を設定して行う診療業務は含まれません。)
公認会計士・弁護士・建築士・不動産鑑定士・弁理士・税理士・中小企業診断士の業務

これらの業務に従事していない労働者は、専門業務型裁量労働制の対象外です。
このほか、会社が専門業務型裁量労働制を導入するには、労使協定が締結されていることも必要です。

以上のとおり、専門業務型裁量労働制の対象業務はかなり限定されています。裁量労働制だと会社から言われていても、実際の業務内容が以上の専門業務型裁量労働制の対象業務ではない場合は、専門業務型裁量労働制の要件を満たしていないということになります。

1-1-2. 企画業務型裁量労働制の要件

高度に企画的な業務に関する裁量労働制としては、企画業務型裁量労働制があります。

企画業務型裁量労働制の対象業務は、事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析の業務です。例えば、単なる営業部門の社員や秘書など、この業務に従事していない労働者については、企画業務型裁量労働制の対象外です。

また、会社が企画業務型裁量労働制を導入するにあたっては、法律に従って構成された労使委員会が5分の4以上の多数決で決議をしている必要があります。

さらに、企画業務型裁量労働制の対象労働者にも制限があり、3年から5年程度の職務経験が必要とされています。また、裁量労働制で働くことについて対象労働者の同意があることも必要です。
職務経験が足りなかったり、裁量労働制で働くことの同意がなかったりすると、やはり企画業務型裁量労働制は法律上の要件を満たさないことになります。

1-2. 裁量労働制の要件を満たさなければ残業代はもらえる

いくら会社が「裁量労働制だ」と言い張っても、専門業務型裁量労働制か企画業務型裁量労働制の要件を満たさなければ、法律的には裁量労働制ではありません。法律的に裁量労働制でなければ、残業した分だけ残業代をもらうことができます。

裁量労働制が認められるのは、すでに説明したとおり、非常に限られた場合だけです。会社から「裁量労働制だ」と言われていても、本当に裁量労働制の要件を満たしているのか、検討する価値は十分にあります。

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2. 実は固定残業代でも追加で残業代をもらえる場合がある

もう一つ、「みなし残業」や「みなし労働」という場合に考えられるのは、固定残業代(定額の残業代)が支払われている場合です。
固定残業代については、「毎月定額だからどれだけ残業してもそれ以上残業代をもらうことはできない」と考える方も多いようですが、これは法的には完全な誤解です。実は固定残業代でも追加で残業代をもらえる場合があります。

2-1. 法律上の要件を満たさない固定残業代は残業代として扱われない

固定残業代が支払われていても、給料のうち、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外労働・深夜労働に対する残業代に当たる部分とを判別できない場合(つまり、「給料のうち何円分が時間外労働に対する残業代なのか」が明確に決まっていない場合)には、法律上は残業代として扱われません。
したがって、このような場合は残業した分だけ残業代を別途もらうことができます。

例えば、固定残業代について、単に「月給25万円(残業代を含む)」「月給25万円(月間180時間までの残業手当を含む)」といった程度にしか定められていない場合は、この固定残業代は法律上は残業代としては扱われず、残業した分だけ残業代を別途もらうことができます。

2-2. 固定残業代でも残業が多ければ追加で残業代をもらえる

固定残業代が法律上も残業代として扱われる場合でも、残業が多ければ、追加で残業代をもらえることがあります。

固定残業代が法律上も残業代として扱われる場合には、給料のうち何円分が時間外労働に対する残業代なのかが明確に分かります(分からない場合は、固定残業代が法律上は残業代としては扱われません。)。実際の残業に基づく残業代の金額が、この固定残業代の金額を超える場合、差額を固定残業代とは別に支払ってもらうことができます。

つまり、例えば30時間分の固定残業代が支払われている場合には、残業が30時間を超えると、固定残業代とは別に残業代をもらうことができます。

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3. 実は残業代をもらえる「名ばかり管理職」が多い

労働基準法は「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)には残業代を払わなくても良いことを定めています。
しかし実際には、管理職の肩書きがあったとしても、いわゆる「名ばかり管理職」として残業代をもらうことができる場合が少なくありません。

3-1. 管理監督者の要件はとても厳しい

労働基準法に定める管理監督者に該当すると、残業代はもらえません。
しかし、この管理監督者に該当するのは、これから説明するとても厳しい要件を満たした場合だけです。

まず、①経営に関する決定に参画し、採用・昇給等の労務管理に関して指揮監督の権限があることが必要です。
次に、②労働時間について裁量権があることが必要です。つまり、自分の出勤時刻や退勤時刻を、自分の裁量で自由に決められることが必要です。
また、③一般の従業員と比べて、管理監督者の地位と権限にふさわしいだけの高額な賃金をもらっていることも必要です。事案にもよりますが、年収600万円未満だと管理監督者に該当するとは判断されにくいでしょう。

以上の①から③までの要件を満たしてようやく、労働基準法の定める管理監督者といえるのです。

3-2. 管理監督者に該当しない管理職は残業代をもらえる

この管理監督者に該当しない場合には、管理職の肩書きがあったとしても、残業代をもらうことができます。
いわゆる「名ばかり管理職」です。

部長、次長、課長という肩書きがあっても、会社の経営に関与しておらず、上司の指示に従って働いているような場合や、上司に出退勤時刻を管理されているような場合などには、管理監督者に該当せず残業代をもらえることが多いでしょう。
また、チェーン店の店長などは、一般的に会社の経営に関与していないことが多く、管理監督者に該当せず残業代をもらえることが多いでしょう。

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4. 実は年俸制でも残業代をもらえる

年俸制だと残業代も年俸に含まれている、残業代はもらえないと思い込みがちですが、これは正しくありません。
誤解している方も多いのですが、年俸制であることは残業代を支払わない理由にはならず、残業した場合には残業した分だけ残業代をもらうことができます。この点で年俸制は月給制と同じです。

年俸制は、裁量労働制、固定残業代と組み合わされることも多く、管理職が年俸制である場合もあります。これらの場合は、既に説明した裁量労働制、固定残業代、管理職の場合と同じように考えることになります。

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5. まとめ

会社から「残業代は出ない」と説明されていても、理由を法律的に検討すると、残業代が出ないというのは嘘だったりします。会社の言うことを鵜呑みにせず、残業代が出ない理由を、きちんと検証してみると良いでしょう。

(この記事は、2017年10月13日時点での法令を前提にしたものです。)
弁護士 戸田 順也

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