2017/09/28
「裁量労働制の拡大」とは?高度プロフェッショナル制度より影響大!?(弁護士が解説)
執筆者 編集部弁護士近日、労働基準法(労基法)改正案に盛り込まれる予定の「高度プロフェッショナル制度」(※)が話題になっています。
しかし、実は、労基法改正案には、「高度プロフェッショナル制度」だけでなく、「裁量労働制の拡大」も盛り込まれる予定になっています。
(2018年3月1日追記)今国会提出予定の労基法改正案には、高度プロフェッショナル制度だけではなく、「裁量労働制の拡大」も盛り込まれる予定でしたが、政府が「裁量労働制の拡大」を行う根拠としていた厚労省のデータが不適切だったことから、政府は今国会提出予定の労基法改正案では「裁量労働制の拡大」は断念する方針であることが2018年3月1日時点で報道されています。
もっとも、近い将来、「裁量労働制の拡大」を盛り込んだ労基法改正案が再び議論される可能性は高いと考えられます。
この「裁量労働制の拡大」は、あまり知られていませんが、「高度プロフェッショナル制度」より大きな影響があるかもしれない法改正です。
そこで、本記事では、そもそも「裁量労働制」とは何か、労基法改正案に盛り込まれる予定の「裁量労働制の拡大」の内容についてまとめました。
※ 高度プロフェッショナル制度の内容については、この記事をご覧ください。
そもそも「裁量労働制」とは
「裁量労働制」とは労基法で認められた制度で、実際の労働時間が何時間かにかかわらず、事前に定めた時間(みなし労働時間)だけ働いたとみなす制度です。
そして、みなし労働時間は法定労働時間(1日8時間等)を超えないようにするのが通常であるため、何時間働いても残業代が支払われなくなります。
ただし、「裁量労働制」が認められるのは、法律が定める厳しい条件を満たした場合だけであり、具体的には、次の①または②の場合だけです。
※ 会社によっては、法律上の条件を満たしていないにもかかわらず、従業員に対して「裁量労働制だから残業代は支払わない」と言っている場合があります。このような場合には、(会社が何と言おうと)裁量労働制の適用は認められないので、会社は残業代を支払う義務があり、弁護士に依頼する等の方法により残業代を支払ってもらうことができます。
① 専門業務型裁量労働制
仕事の業種が、以下のどれかに当てはまる方で、会社に裁量労働制を定める労使協定がある方
a) 新商品・新技術の研究開発(助手は含みません)
b) 人文科学・自然科学の研究(助手は含みません)
c) 情報処理システム全体の分析や設計(プロジェクトチーム内でリーダーの指示で動く仕事や、情報処理システムを構成する一部のプログラムを作成するプログラマーは含みません。)
d) 新聞・雑誌などの記事の取材・編集(カメラマンや、校正だけの仕事は含みません。)
e) テレビ番組・ラジオ番組の取材・編集(カメラマンや、校正・音量調整・フィルムの作成だけの仕事は含みません。)
f) テレビ・ラジオ・映画・イベントなどのプロデューサーやディレクター(ADは含みません。)
g) 衣服・インテリア・工業製品・広告などのデザイン(他の方が作ったデザインから、図面や製品を作るだけの仕事は含みません。)
h) コピーライター
i) システムコンサルタント(通常のプログラマーは含みません。また、経営コンサルタントなど、システムコンサルタント以外のコンサルタントも含みません。)
j) インテリアコーディネーター
k) テレビゲームやPCゲームのシナリオ作成・映像制作・音響制作など(他の方の指示で動くプログラマーは含みません。)
l) 証券アナリスト(ポートフォリオ管理のみの仕事やデータ入力だけの仕事は含みません。)
m) 金融商品の開発
n) 大学教授・助教授・大学講師の研究業務(医師の方の診断業務は含みません)
o) 公認会計士、弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士の業務
② 企画業務型裁量労働制
経営企画等(自分の会社の事業についての企画・立案・調査・分析)の仕事をしていて、労使委員会の決議があり、裁量労働制で働くことに対して従業員自身の同意がある場合。(営業や製造などの現場の仕事や、経理・人事等の事務は含みません。)
なお、裁量労働制の方であっても、法定休日や深夜(午後10時~午前5時)に働いた場合には、休日労働手当や深夜労働手当を支払ってもらう権利があります。
(編集部注:不当な裁量労働制による未払い残業代がある方は、残業代・解雇弁護士サーチでお近くの弁護士に相談してみよう!)
労基法改正案に入る予定の「裁量労働制の拡大」
労基法改正案では、上記②の企画業務型裁量労働制の対象業務が拡大されます。
現在対象となっている経営企画等の業務(自分の会社の事業についての企画・立案・調査・分析の業務)に加えて、下記AとBの業務が企画業務型裁量労働制の対象となります。
A 課題解決型提案営業
>顧客(法人顧客)の事業について企画・立案・調査・分析を行った上で、その結果を活用して営業(商品やサービスの販売のための営業)を行う業務
例えば、「取引先のニーズを聴取し、当該ニーズに応じた新商品の企画立案・開発を行った上で、当該商品を販売する業務」などが想定されています。
なお、メディア報道によると、連合の要請を受けて、政府は、上記の課題解決型提案営業に通常の商品販売・営業が含まれないことについて、立法時に明確化するとのことです。
B 裁量的にPDCAを回す業務
自社の事業について、繰り返し、企画・立案・調査・分析を行い、その結果を活用して事業の管理・実施状況の評価を行う業務
例えば、「全社レベルの品質管理の取組計画を企画立案し、当該計画に基づく調達や監査の改善を行い、各工場に展開するとともに、その過程で出てきた意見等をみて、さらなる改善の取組計画を企画立案する業務」などが想定されています。
また、労基法改正案では、上記の対象業務の拡大に加えて、企画業務型裁量労働制を実施する企業に義務付けられる従業員の健康確保措置について、下記の改正が盛り込まれています。
- 健康確保措置の内容について、特別の有給の付与、健康診断の実施、その他の厚労省令で定める措置と法律で規定されます。(現在は厚労省の指針で例示されているのみ)
- 現在、定期的に行う必要がある行政官庁に対する健康確保措置の実施状況の報告について、「定期的に」行う必要がなくなります。
さらに、労基法改正案では、会社(使用者)が裁量労働制の従業員の始業時刻・終業時刻を指定できないことが明確化されます。(現在も、会社は従業員に「時間配分の決定」について具体的な指示ができないことが法定されているので、解釈上は、会社は始業時刻・終業時刻を指定できませんが、この点が明確化されます。)
この点は、企画業務型裁量労働制だけでなく、専門業務型裁量労働制にも適用されます。
(「裁量労働制の拡大」の内容については、近時のメディア報道や、労基法改正案、労働政策審議会の建議「今後の労働時間法制等の在り方について」等を参考にしています)
今すぐ残業時間の証拠を確保したい方はザンレコをダウンロード!
残業代を今すぐ請求したいという方は、残業代・解雇弁護士サーチで、労働問題を扱っているお近くの弁護士を検索することができます。残業代・解雇弁護士サーチには、残業代、解雇等の労働問題を専門分野とする少数精鋭の弁護士だけが厳選して紹介されています。初回相談料無料の弁護士も多くいるので是非一度労働問題の専門家に相談してみてはいかがでしょうか。