2020/12/09

【弁護士監修】タイムカードがないと残業代は請求できないの?気になるタイムカードと残業代の関連性

執筆者 編集部
残業代関連

「タイムカードがないと残業代は請求できないの?」
と思う方もいることでしょう。
タイムカードは労働時間を証明する有力な方法の一つです。しかし、タイムカードがなくても労働時間を証明し、残業代を請求することは可能です。
この記事では、気になるタイムカードと残業代の関連性をご紹介します。

 

【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)

監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか

1. タイムカードの役割について

最初に、タイムカードの役割について見ていきましょう。

1-1. 労働時間の正確な把握

タイムカードの第1の役割は、労働時間の正確な把握です。タイムカードの打刻は始業時刻と終業時刻をもっとも強力に証明するものの一つとなります。

なお、労働時間とは以下の時間を含みます。
・制服への着替えなど、業務に必要な準備のための時間
・指示があれば即座に業務に取り掛からなければいけない「手待ち時間」
・業務で義務付けられた研修や教育、学習のための時間

1-2. 長時間労働の解消

タイムカードを運用し、労働時間を正確に把握することは、長時間労働の解消にもつながります。
現在進められている働き方改革で「長時間労働の解消」は大きな柱となっています。日本の長時間労働は深刻な問題となっており、過労死なども多く発生しています。2013年には国連から、長時間労働の是正勧告もされました。そのために、働き方改革では残業時間の上限規制も初めて導入されました。
しかし、長時間労働を解消するには、まず労働時間の正確な把握が必要です。そのための強力なツールがタイムカードだということです。

1-3. 残業代を請求するときの重要な証拠の一つ

タイムカードは残業代を請求する際にも重要な証拠の一つになります。裁判になった場合も、会社の反論が認められない限り「タイムカードに打刻された時間が労働時間である」ということが認定されます。したがって、タイムカードはスマホで写真を撮るなどし、証拠として残しておくのがおすすめです。

1-4. 会社にタイムカードがないのは違法なのかどうか

従業員の労働時間を把握することは、労働安全衛生法 第66条8の3で会社に義務付けられています。したがって、会社が従業員の労働時間を把握しないのは違法です。
しかし、タイムカードがないこと自体は違法とはいえません。タイムカードは、従業員の労働時間を把握するための一つの方法だからです。

平成29年に発行された厚生労働省のガイドラインで、始業・就業時間の確認方法として次のものが「原則的な方法」とされています。
・使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること
・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること

参考: 『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン』

そのほかにも、業務日報やWebの出退勤記録などの客観的な方法で、始業・終業時刻が記録されていれば問題はありません。

2. タイムカードがなくても残業代を請求できるのか?

タイムカードがなくても、他の方法で残業時間を証明できれば、残業代は請求できます。タイムカード以外で勤怠記録の証明となるものは以下のようなものがあります。

2-1. タイムカード以外の勤怠記録の証明となるもの

・業務日報や勤怠データ
業務日報・勤怠データをパソコンや紙にまとめたものは、会社がその内容を認めて保存しているわけですから、勤怠記録の有力な証拠になります。

・パソコンのログイン・ログオフ時間
パソコンのログイン・ログオフ時間も、勤怠記録の証拠として認められることがあります。内勤でパソコンを使う業務なら、パソコンにログインしていた時間が労働時間とほぼイコールなのは一般的だからです。

・メールの送受信記録
業務でやり取りしたメールの送受信記録も、勤怠時間の証拠になることがあります。ただし、個人のスマホや自宅から送ったメールは、必ずしも勤怠時間の証明になるわけではないので注意しましょう。

・交通系ICカードの利用履歴
交通系ICカードの利用履歴も、勤怠時間を間接的に証明するものになります。ただし、勤怠記録を直接示すものではないため、他の証拠とあわせて提出になることが多いです。

3. タイムカードがあっても残業代をきちんともらえていない場合もある

タイムカードがあっても残業代をきちんともらえていない場合もあります。正確に残業代が払われていないのは以下のようなケースがあります。

3-1. 正確に残業代が払われていないケース

・定時を過ぎるとタイムカードを押せなくなる
仕事が定時を過ぎてしまうと、「残業は禁止だから」と定時でタイムカードを押させ、引きつづき仕事をさせるケースがあります。従業員も、定時で仕事を終わらせるよう努力することは必要です。しかし、明らかに定時で終われないほど仕事量がある場合には、会社は残業代を支払わなくてはなりません。

・全社員の終業時刻を同じにする
ある大手住宅メーカーでは、タイムカードを午後5時に押すよう全社員に指示していました。このようなケースでは、タイムカードの打刻時間と実際の労働時間は全く一致していません。

・持ち帰り残業をさせる
持ち帰り残業をさせられる場合、そのためにかかった時間が労働時間として認められることがあります。

4. おわりに

タイムカードは残業代を請求する際の重要な証拠の一つです。しかし、タイムカードがない場合でも、勤怠記録を証明できるものがあれば残業代は請求できます。
また、タイムカードがあっても、タイムカードの打刻時間が実際の労働時間と異なり、残業代をきちんともらえていないケースもあります。そんな残業代についての悩みがあれば、ぜひ弁護士に相談しましょう。

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