2020/03/04

【弁護士監修】運送業のみなし残業問題!残業代を請求するにはどうしたらいいの?

執筆者 編集部
残業代関連

長距離トラックの運転や荷物の配送といった運送業に従事されている方の中には「残業代がみなし残業の扱いになっているので、労働時間が長いわりには給料が少ない」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、運送業に従事されている方向けに、みなし残業とは具体的にどのようなものか解説します。みなし残業が違法なケースを理解し、自分の置かれている状況を把握すれば、未払いの残業代を会社に請求できます。ぜひ参考にしてみてください。
 

【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)

監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか

1. なぜ運送業はみなし残業が多いと言われるのか?


ここでいう「みなし残業」とは、一定時間の残業を想定して金額が固定された「固定残業代」で支払われる残業を指します。トラックの運転や荷物の配送を行う運送業は、特にみなし残業が多いといわれています。ここでは、その理由について詳しく見ていきます。

1-1. 就業時間が不定期

運送業の場合、業務の性質上、働いている時間と休憩時間の区別が難しいのが実情です。会社から携帯電話を支給され、荷物の積み降ろしや配送先へ出発するとき、休憩に入るときといったタイミングでこまめに連絡を入れているという方もいるかもしれません。しかし、連絡が来るたびに会社側が勤怠を記録するというのはあまり現実的ではないでしょう。

こうした事情から、従業員の残業をみなし残業として一括で計算する企業が多くなっています。

1-2. 荷待ち時間等が労働時間に含まれるかわからない

どれだけ効率的に動こうとしても、顧客側の事情で時間的なロスが生じる場合があります。たとえば、荷物の積み下ろしを待機している荷待ち時間はドライバー側の努力ではどうにもなりません。

国土交通省は、荷待ち時間はドライバーの就業時間に含めるように事業所側に義務付けています。しかし、ただ待っているだけのドライバーは労働時間に含めていいのか判断しづらいでしょう。そういったことも、みなし残業問題の背景と考えられます。

1-3. 歩合制なので残業代がないと勘違いしている

歩合制で働いている方の中には、残業代は発生しないものと考えている方も多いようです。「残業代は歩合給に含まれている」「売上に応じて給料をたくさん払うこともあるのだから、残業代を請求するのは理屈に合わない」と会社側から言われている場合もあるかもしれません。

しかし、労働時間に応じた一定額の保障給のない「完全歩合制」は違法とされています。適法な歩合制は必ず「保障給+歩合給」という給与体系になっています(労働基準法27条)。保障給の部分は時間で計算されるので、「1日8時間、1週間40時間」という法定労働時間を超えた労働時間は時間外労働、つまり残業にあたり、残業代が発生します。

 

2. みなし残業とは?固定残業代の仕組み


みなし残業という言葉は、一般的な用語として広く使われています。とはいえ、給与計算の実務に携わっているような方でも内容を明確に理解している方はそれほど多くないのが実情です。ここでは、みなし残業の意味や仕組みについて見ていきましょう。

2-1. みなし残業とは?

みなし残業とは、一定時間の残業代が「固定残業代」としてあらかじめ固定給に含む形で支給される残業を指します。たとえば、「月30時間分までの残業代として5万円を基本給に含める」といった雇用契約を結ぶ場合、30時間がみなし残業になります。

みなし残業制度を導入すること自体は合法です。ただし、従業員に周知し同意が得られていること、固定残業代の金額(〇万円)と相当する残業時間(〇時間分)を明記することの2点が条件になります。

また、実際の労働時間がみなし残業時間を超えた分については、残業代として労働者に支払わなくてはなりません。30時間がみなし残業時間のケースでは、40時間残業したら10時間分は残業代として固定給とは別に支払う義務があります。

2-2. みなし残業制度を適用するには、従業員の個別の同意を得るか、従業員全体に周知する必要がある

みなし残業制度を適用するには2つの方法があります。

その一つが、みなし残業制度の適用を受けることについて、従業員から個別に同意を取得するという方法です。この場合、個別の雇用契約書等において固定残業代の金額と残業時間を明記していなければなりません。

もう一つは、みなし残業制度について就業規則や賃金規定に定め、これを従業員に周知しておくという方法です。みなし残業に関して企業が設けているルールは、口頭で知らせるだけでなく、就業規則や賃金規定といった書面で従業員に周知しなければならないのです。

また、就業規則や賃金規定は従業員がいつでも見られる状態でなければ、周知されていると認められず、無効になります。会社の総務部や人事部で保管しているのが一般的ですが、社内限定のイントラネットで閲覧できる企業も多いようです。

さらに、雇用契約書等と同様に、就業規則や賃金規定においても固定残業代の金額と残業時間をはっきりと記載する必要があります。

 

3. みなし残業が違法になるパターン

みなし残業制度自体は合法ですが、正しく運用されていないと違法になる場合があります。ここでは、運送業でみなし残業が違法になるパターンとして実際によく見られる状況についてご紹介します。自分が働く職場でも同じような扱いがされていないかどうか確認してみてください。

3-1. 労働時間に見合った給料が支払われていない

実際の労働時間がみなし残業時間よりも多いにもかかわらず、残業時間分の賃金が支払われていないのは違法になります。「どんなに残業しても固定残業代にすべて含まれている」という会社側の主張は誤りです。

「月給26万円(40時間分の固定残業代6万円を含む)」といった契約をしているときには、40時間を超えた分に関しては残業代を支払う義務があります。また、残業時間が40時間に満たなかった場合も固定残業代6万円は満額支払わなければなりません。

運送業は実際の労働時間を把握しにくいのが欠点です。外で働いているので、仕事をしている時間をはっきりと証明する手段が多くありません。とはいえ、残業代の請求のためには、正確な労働時間の記録が必要です。日報やデジタルタコグラフ、車載カメラの映像、メールの送受信記録といったデータを参考に正確な就業時間を記録すると共に、できればこれらのデータのコピーを保全しておきましょう。

3-2. 最低賃金を下回る

基本給を時給に換算したとき、法で定められた最低賃金を下回るのは違法です。たとえば「残業手当2万円(月40時間分を含む)」と金額と時間が明記されていたとします。一見、問題がないように思えますが、時給計算をすると500円で最低賃金を下回っています。この賃金は違法となり、不足していた分(最低賃金との差額)を請求できます。

また、みなし残業時間で計算したときには最低賃金を上回っていても、実際の労働時間で計算したら最低賃金に満たないというケースもあるので注意が必要です。

なお、最低賃金は都道府県によって大きく異なります。たとえば、東京都は1,013円、大阪は964円ですが、島根県は790円とかなり差があります。違法な賃金で働かされていないか知るためにも、自分の住んでいる地域の最低賃金を確認しましょう。

3-3. 残業時間の上限規制をみなし残業が上回っている

労働基準法の改正により、一般的な業種で働く労働者には、原則として「1か月45時間、1年360時間」という残業時間の上限が設けられました。大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から適用されていますが、運送業は5年の猶予があります。

現在、運送業については、労働省告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」により、以下のように拘束時間の上限が定められています。
・1日:原則13時間(最大16時間。ただし15時間を超える回数は1週間に2回以内)
・1か月:293時間(1年間3,516時間を超えない範囲で6か月までは320時間に延長可能)
・1年間:3,516時間

就業規則や賃金規定に書かれているみなし残業時間と通常の労働時間の合計が拘束時間の上限を上回っている場合は違法です。

 

4. みなし残業と実労働時間

1年の中でも忙しい時期とそうでない時期があるため、月によって残業時間は異なります。みなし残業時間のほうが多い月の残業代と実労働時間のほうが多い月の残業代は、それぞれどのような扱いになるのでしょうか。

ここでは、「月給26万円(40時間分の固定残業代6万円を含む)」という契約を例にして、残業代の計算方法について解説します。

4-1. みなし残業時間が実労働時間より多い場合

みなし残業時間が実労働時間より多い場合でも、企業はあらかじめ決まっているみなし残業代を支払う義務があります。たとえ残業時間が0時間だったとしても固定残業代6万円は満額支給されます。

みなし残業時間が40時間で契約しているなら、残業時間が0時間でも20時間でも40時間残業したとみなすのがみなし残業です。実際に残業した時間にかかわらず、40時間残業した分の賃金は支払われます。

したがって、「残業していないのだから固定残業代を支払う義務はない」という主張は誤りです。また、今月残業が少なかったからといって翌月の残業代と相殺することもできません。

4-2. みなし残業時間が実労働時間より少ない場合

では、みなし残業時間よりも実際の労働時間のほうが多いときはどうでしょうか。この場合、40時間分の固定残業代6万円を全額支給するとともに、40時間を超えた分の残業代を支払わなければなりません。

たとえば、実労働時間が50時間というケースで考えてみましょう。みなし残業時間は40時間なので、10時間分の残業代を請求できます。1時間あたりの残業代は、月給から固定残業代や控除される手当を引いた基礎賃金を1か月の所定労働時間で割り、1.25をかけて求めます。時間外労働の賃金は25パーセントを上乗せした割増賃金で支払われます。

月給26万円、固定残業代6万円、1か月の所定労働時間160時間の場合
1時間あたりの残業代=(26万円-6万円)÷160×1.25=1,563円(0.5円は切り上げ)

みなし残業時間を超えた残業時間は10時間なので、1,563円×10時間=1万5,630円を会社側は支払う義務があります。

 

5. みなし残業に上限はあるの?

みなし残業に関する就業規則を決めるとき、企業が守るべきルールがあります。自分の会社でみなし残業がどのように扱われているかについては、会社に保管されている就業規則で確認できます。就業規則と見比べながら、みなし残業制度が正しく適用されているか判断しましょう。

5-1. 特別に上限が設けられているわけではない

みなし残業を何時間にするかということに関しては、特に上限はありません。ただし、固定残業代をみなし残業時間で割った1時間あたりの賃金が最低賃金を下回っているのは違法になります。

たとえば、みなし残業時間40時間、固定残業代6万円の場合、1時間あたりの賃金は1,500円です。仮に東京都で働いているとすると、最低賃金1,013円に1.25をかけた割増賃金は1,266円になります。1,500円は1,266円を上回っているので問題ありません。

しかし、36協定の関係で1か月あたり45時間以内に設定されていないと労働基準法に違反する恐れがあります。

5-2. 月間45時間まで

企業と従業員が36協定を結べば、法定労働時間である「1日8時間、1週間40時間」を超えた残業が可能になります。とはいえ、残業時間の上限は「1か月45時間、1年360時間」とするのが原則です。2019年4月から「働き方改革関連法」が施行されているので、残業時間の上限を超える残業をさせ続けた場合、会社側は刑事罰が科せられる恐れがあります。

ただし、運送業は適用が5年間猶予されており、適用後の上限時間は1年960時間になる予定です。また、36協定結んでいたとしても、運送業は「限度時間に当てはまらない業務」にあたります。したがって、運送業の拘束時間の上限は「1か月293時間、1年3,516時間」が現状のルールになります。

5-3. 36協定とは?

「36協定」とは、「法定時間を超えて労働者を働かせる場合、あらかじめ労働組合または労働者の代表と協定を結ばなくてはならない」という内容の協定です。労働基準法第36条で定められているため、「36(サブロク)協定」と呼ばれます。

36協定を結べば、1日8時間、1週間40時間の法定労働時間を超えた時間外労働や休日労働が可能になります。逆にいえば、36協定がなかったら、企業は従業員に1分たりとも残業をさせられません。

しかし、実際には36協定を結ばずに残業させている企業もあるようです。平成25年10月の厚生労働省の調査によると、中小企業の56.6パーセントは36協定を結んでいないことがわかっています。

5-4. 違反したらどうなる?

従業員の残業に関して、労働基準法に違反している場合にはどうなるのでしょうか。たとえば、みなし残業時間を超えた分の残業代を支払わない、残業時間の上限を超えて働かせている、36協定を結ばずに残業させているといったケースです。

いずれの場合も労働基準法違反にあたり、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられます。とはいえ、いきなり刑事罰が科せられることはほとんどなく、まずは労働基準監督署による調査や行政指導(是正勧告)が行われるのが一般的です。

再三の行政指導にもかかわらず悪質な状況が改められない場合には、企業や事業主に刑事罰が科せられる可能性があります。

5-5. 未払いの残業代を請求するには

未払いの残業代を請求するときには、タイムカードや給与明細、雇用契約書を集めて企業側と交渉する必要があります。特に、運送業に従事する方は実際の労働時間がわかりにくいので、日報や車載カメラの記録といった証拠をできるだけ多く集めましょう。

証拠集めから交渉まですべて自力で行う方もいますが、法律知識のない方の交渉はあまりおすすめできません。職場にいづらくなったり、計算が間違っていて受け取れるはずの残業代をあきらめたりといった状況になる恐れがあります。

こうした失敗を避けるためにも、労働法を専門とする弁護士に依頼しましょう。弁護士は交渉のプロでもあるので、企業との信頼関係を崩すことなく解決に導いてくれます。

 

6. まとめ


この記事では、長距離トラックの運転や荷物の配送といった運送業に従事している方向けに、みなし残業に関する法律や残業代の請求方法について解説しました。

運送業は長時間の残業が発生しますが、固定残業代が支払われている場合、固定給しか受け取っていない方もいるかもしれません。しかし、みなし残業でも残業代は支給されます。みなし残業時間を超えた分の残業代が支払われていないときは、企業に対して正しい残業代を請求しましょう。

ただし、残業代の請求には2年間の時効があります。時効が成立すると未払いの残業代が受け取れなくなるので、早めの対処がおすすめです。

また、残業代を請求するときは弁護士に依頼することをおすすめしますが、弁護士に依頼する場合、残業代請求の成功不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が通るかわからない中で、弁護士に数十万円を最初に渡すのは抵抗がある方も多いかもしれません。

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