2020/01/24

【弁護士監修】残業時間についての規制が改正!新しい規則と違反したときの罰則とは?

執筆者 編集部
残業代関連

2018年6月の「働き方改革関連法」成立にともない、労働基準法が定めている残業時間についての規定が一部改正されました。
この改正により労働環境の改善やワークライフバランスの実現が期待されていますが、一方で労働者にとってリスクをはらんでいるとの指摘もあります。「本当に残業や休日労働が減るのか」「サービス残業が増えてしまうのではないか」などの懸念をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、残業時間規制に関する改正の具体的な内容や知っておきたいリスクを解説しています。残業代を請求する方法も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。

【監修】鎧橋総合法律事務所 早野述久 弁護士(第一東京弁護士会)

監修者プロフィール
・株式会社日本リーガルネットワーク取締役
監修者執筆歴
・ケーススタディで学ぶ債権法改正、株主代表訴訟とD&O保険ほか

1. これまでの労働基準法や36協定について


まずは、労働基準法が定めている労働時間や休日についての規定を確認しましょう。会社に不当な労働を強いられることなく健全な毎日を送るためには、ぜひ知っておきたい内容です。
今回の法改正のカギとなっている「36(サブロク)協定」についても分かりやすく解説していきます。

1-1. 労働基準法で決まっている法定労働時間

会社で働く労働者を守るために作られた法律が「労働基準法」です。この法律では雇用者(会社)に対してさまざまな義務を課しており、労働時間や休日についても規定を設けています。
原則となる規定は、「1日8時間」「1週間に40時間」を超えて労働させてはならず、「休日は毎週最低でも1日設ける」の3つです。
ただし、会社と従業員代表の間で協定を結ぶことにより法定労働時間を超えた労働(時間外労働)や法定休日に出勤をさせること(休日労働)が認められます。その協定とは、「36(サブロク)協定」です。

1-2. 36協定とは

36(サブロク)協定とは、残業や休日労働を可能にするために、会社と従業員代表の間で結ぶ協定です。この協定を結んで労基署に届け出ないと、従業員に法外残業(1日8時間を超える労働や、週40時間を超える残業)や法定休日労働をさせることはできません。
36協定を結んでいるかどうかは、就業規則や雇用契約書を見れば分かります。自分が会社と36協定を結んでいるかどうかわからない方は、ぜひ確認してみましょう。
たとえ就業規則のない会社でも、36協定は会社の見やすい場所に貼る、書面を交付するなど、従業員に周知することが義務づけられています。たとえば、職場の見やすい場所に貼ってある、休憩室に置いてある、パソコンで従業員が誰でも見られるフォルダに格納されている、などです。

1-3. 36協定の残業時間は限度基準告示で定められていた

残業や休日労働を可能にする36協定ですが、上限がないわけではありません。厚生労働省の告示「時間外労働の限度に関する基準」では「月45時間・年間360時間」という上限が設けられているため、原則としてこの労働時間を超えてはならないのです。
しかし、これまでこの上限には法的拘束力がありませんでした。なぜなら「法律」で定めた限度ではなく、厚生労働大臣の法的拘束力のない告示によるものだったからです(限度基準告示)。
法的拘束力がないということは、罰則もありません。そのため限度を超えて労働をさせる会社もあり、結果としてそれが許されていたのです。

2. 残業時間についての法律が改正された

これまで残業時間の上限はあくまでも法的拘束力のない「告示」によるもので、法的拘束力も罰則もありませんでした。
しかし今回の法改正により、残業時間の上限が罰則付きで法律に規定されたのです。
(※企業規模による経過措置、適用が猶予・除外される事業・業務があります。)
残業時間の法律上の上限が、原則として「月45時間・年間360時間」と定められ、これに違反すると「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されることになりました。
ただし、特別な事情がある場合には、例外的に残業時間の上限を引き上げることができます。このケースについては次の章でくわしく見ていきましょう。

3. 特別な事情があり業務が増える場合はどうなる?


残業時間の上限が罰則付きで法律に規定されたことで、残業に対して厳しい体制が整えられたと言えます。
しかし、たとえば何か緊急事態が発生して業務が増えてしまったときなど、どうしても残業が必要になるケースもあるでしょう。そのようなケースを想定し、労働基準法ではある特別な協定を用意しています。

3-1. 特別条項付き36協定を結ぶ

臨時的で特別な事情がある場合(通常予見できない業務量の大幅増加などにともなって臨時的に労働をさせる必要がある場合)には、「特別条項付36協定」という特別な協定を結ぶことで残業時間の上限を引き上げられます。
ただし、この特別条項付36協定には、限度時間を超えて残業を行わせなければならない特別な事情、特別条項にもとづいて限度時間を超える回数(年6回以内)、特別条項における年間の時間外労働の上限(年720時間)、1ヶ月あたりの時間外労働と休日労働の合計時間数の上限(100時間)、2~6ヶ月の時間外労働と休日労働の合計時間数の上限(平均80時間)などをすべて定めておく必要があります。
また、業務の種類ごとに、特別条項による上限を超えた残業を行わせることが必要な理由を、詳しく、できるだけ具体的に記載しなければならないこともポイントです。
法改正以前にも特別条項付36協定はありましたが、今回の法改正によってその内容も見直され、特別条項付き36協定を締結するハードルが上がりました。「忙しくなる可能性があるから特別条項も一応入れておこう」といった保険的な使い方が難しくなったと言えるでしょう。

3-2. 特別条項付き36協定を締結したときの上限

特別条項付き36協定を結んだとしても、守らなければならない条件があります。以下に挙げる4つの条件です。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働+休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働+休日労働の合計について、2か月平均・3か月平均・4か月平均・5か月平均・6か月平均がすべて1か月あたり80時間以内(1日4時間ほどの残業に相当)
・時間外労働が月45時間を超えてもよい期間は1年のうち6か月まで
これらの条件を守らない場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。

4. 残業時間の改正はいつから適用されるの?


ここまで、働き方改革にともなう残業時間の改正について具体的な内容を紹介してきました。
では、実際にこの改正内容はいつから適用されるのでしょうか。実は、もう一部の会社では適用がスタートしています。適用のスタート時期は、大企業と中小企業とで少し違いがあります。具体的に見ていきましょう。

4-1. 改正が始まる時期

残業時間改正の適用がスタートするタイミングは、大企業と中小企業とで異なります。大企業のスタートは2019年4月から、中小企業は2020年4月からです。つまり、中小企業に対しては、1年間の猶予期間が与えられている形になります。
これは、大企業に比べて労働者数や資本金が少なく、残業時間改正への対応が追いつかないことも考えられる中小企業への配慮と考えられます。
では、どのような基準をもって中小企業と判断されるのでしょうか。次の章で詳しく解説していきます。

4-2. 中小企業の範囲

その会社が中小企業に当てはまるかどうかは、「資本金の額または出資の総額」「常時使用する労働者の数」により判断されます。
ここでの「中小企業」とは、以下のいずれかにあてはまる場合です。
(会社がどの業種に当たるかは、日本標準産業分類にしたがって判断されます。)

・小売業:「資本金の額または出資の総額」が「5,000万円以下」または「常時使用する労働者の数」が 「50人以下」
・サービス業: 「資本金の額または出資の総額」が「5,000万円以下」または「常時使用する労働者の数」が「100人以下」
・卸売業: 「資本金の額または出資の総額」が「1億円以下」または「常時使用する労働者の数」が「100人以下」
・その他(製造業、建設業、運輸業、その他): 「資本金の額または出資の総額」が「3億円以下」または「常時使用する労働者の数」が「300人以下」

なお、中小企業に当たるかどうかは、事業場単位ではなく、企業単位で判断されます。

5. 改正後は以前の36協定はどうなる?

残業時間の改正は2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から適用スタートとなりますが、このスタート時点をまたぐ期間に対して定めた36協定はどのようになるのでしょうか。
まず、スタート時点以後の期間のみが対象となった36協定については、改正内容が適用されます。
一方、2019年3月31日を含む期間が対象の36協定は、その協定の初日から1年間は引き続きその36協定が有効となり、今回の法改正は適用されません。
たとえば、2018年10月1日が始期の36協定の場合は、2019年9月30日まで改正内容が適用されないということです。1年が経過した2019年10月1日から改正内容が適用となります。

6. 上限規制の適用がない事業・業務がある


今回の法改正による残業時間の上限規制は、例外として適用が一定期間猶予あるいは除外されている事業・業種もあります。
たとえば、「建設事業」「自動車運転の業務」「医師」「鹿児島県・沖縄県における砂糖製造業」「研究開発業務」が当てはまりますが、それぞれ猶予・除外の内容が異なるため見ていきましょう。猶予後にどのような扱いになるかも紹介しています。

6-1. 建設事業

5年間(2024年3月31日まで)は猶予期間となり、残業時間の上限規制が適用されません。猶予期間後(2024年4月1日以降)は、災害の復旧・復興の事業を除いて、上限規制内容がすべて適用となります。
災害の復旧・復興事業については、「時間外労働+休日労働の合計が月100時間未満」「時間外労働+休日労働の合計について、2か月平均・3か月平均・4か月平均・5か月平均・6か月平均がすべて1か月あたり80時間以内」という規定は適用されません。

6-2. 自動車運転の業務

建設事業と同じく、5年間(2024年3月31日まで)は上限規制の適用が猶予されており、残業時間の上限規制が適用されません。猶予期間後(2024年4月1日以降)は、特別条項付き36協定を結ぶ場合の残業時間の上限が「年間960時間」となります。
また、「時間外労働+休日労働の合計が月100時間未満」「時間外労働+休日労働の合計について、2か月平均・3か月平均・4か月平均・5か月平均・6か月平均がすべて1か月あたり80時間以内」「時間外労働が月45時間を超えてよい期間は1年のうち6か月まで」の規定は適用されません。

6-3. 医師

医師についても、建設事業・自動車運転の業務と同じように5年間(2024年3月31日まで)は猶予されます。
しかし、猶予期間終了後(2024年4月1日以降)の取り扱いについては、他の事業・業務とは異なり詳細が未定となっています。具体的な上限時間は、地域の医療体制や医師の健康確保、応召義務などの特殊性を考慮しながら今後検討されるようです。

6-4. 鹿児島県・沖縄県における砂糖製造業

5年間(2024年3月31日まで)の猶予期間はありますが、他の事業・業務と異なり、すべての上限規制が適用されないわけではありません。
「時間外労働+休日労働の合計が月100時間未満」「時間外労働+休日労働の合計について、2か月平均・3か月平均・4か月平均・5か月平均・6か月平均がすべて1か月あたり80時間以内」のみが適用外となる規定です。
そして猶予期間終了後(2024年4月1日以降)は、すべての上限規制が適用となります。

6-5. 研究開発業務

新しい商品や技術の研究・開発を行う業務については、例外として残業時間の上限規制が適用されません。
ただ、今回の法改正に伴う「労働安全衛生法」の見直しにより、「1週間あたり40時間を超えて労働した時間が月100時間を超えた労働者には医師の面接指導を行うこと」との規定が義務づけられました。
医師の意見を考慮し、必要があれは職務内容や就業場所の変更、有給休暇の付与といった措置も講じる必要があります。違反した場合は罰則の対象です。

7. 残業時間の改正で考えられるリスク

労働環境の改善やワークライフバランスの実現が期待されている今回の改正ですが、実は、すべての労働者にメリットのある内容かどうかは少し疑問が残ります。
とくに気になるのは、残業が規制されても実際の業務量が減るとはかぎらないという点です。残業しないと終わらない業務量にもかかわらず残業申請が認められないために、始業前や休憩時、自宅などに仕事を持ち込まなければならない状況に陥る可能性があるためです。
また、労基法違反の実態を隠蔽するために、残業時間についてタイムカードなどの出退勤記録を残すことを認めず虚偽申告させたり、タイムカード自体を廃止する会社が増えています。
実際の労働時間はほとんど変わらないのに、会社が残業を認めないため残業代が支払われないとなれば、労働者にとっては大きな不利益でしょう。

8. 実は残業代の請求は簡単に行える!

今回の残業時間の改正には、労働者にとってリスクもあることがわかりました。残業や休日労働が減ることを期待していた方にとっては少しがっかりする事実だったかもしれません。

しかし、今まで不当な残業を強いられてきた方、今も賃金が支払われない残業で酷使されている方は、残業代の請求ができることをご存知でしょうか。
未払いの残業代を含め、「給与が支払われるはずだった給料日の翌日から2年以内」という期間の限定はありますが、会社に対して残業代の支払いを求められるのです。

通常は、弁護士に依頼して残業代請求をします。
ただし弁護士に依頼する場合、残業代請求の成功不成功にかかわらず、最初に依頼するための着手金が必要な場合が多々あります。残業代請求が通るかわからない中で、弁護士に数十万円を最初に渡すのは抵抗がある方も多いかもしれません。

そんな方におすすめなのが『アテラ 残業代』です。
①『アテラ 残業代』では、弁護士の着手金を立替えてくれるので、お手元から現金を出さずに、弁護士に着手金を払って依頼することができます。
②さらに、『アテラ 残業代』を利用すると、敗訴した場合や勤務先からお金を回収できなかった場合には、立替えてもらった着手金を実質返済する必要がないので、リスク0で残業代請求を行うことができます。
残業代請求をするときのリスクは、最初の着手金を支払うことで敗訴したときに収支がマイナスになってしまうことですが、『アテラ 残業代』を利用することでそのリスクがなくなります。

着手金にお困りの方、残業代請求のリスクをゼロにしたい方は、ぜひ『アテラ 残業代』をご利用ください。

9. まとめ


労働者を守るために実施される残業時間の改正ですが、会社の対応によってはサービス残業や持ち帰り残業が発生し、かえって不利益を被る可能性があります。
万が一そのような不利益を被った場合には、支払われるべき残業代を請求し、会社から自分の労働に見合う対価をきちんと支払ってもらいましょう。これは労働者としての当然の権利といえます。

弁護士への着手金が不安な方も、弁護士費用保証サービス『アテラ 残業代』を使えばリスクなしで残業代請求ができます。
また、着手金支払いの負担・リスクではなく、どの弁護士に頼むかでお悩みの方は、ぜひ株式会社日本リーガルネットワークが運営するWebサイト『残業代・解雇弁護士サーチ』の弁護士検索機能をご利用ください。

おすすめの記事

  1. なぜ電通はたった罰金50万円なのか?違法な残業命令・残業代不払いに対する労基法上の罰則・ペナルティまとめ(弁護士が執筆)
  2. 【弁護士監修】残業代の未払いにはどれくらいの罰則が科されるのか?会社が罰則を科される場合とは?
  3. 労働基準監督署は残業代請求について相談したら何をしてくれるのか?

一覧に戻る