2019/07/01
労働基準監督署は残業代請求について相談したら何をしてくれるのか?
執筆者 編集部会社が残業代を支払わない場合、一般的に、労働者はどのような対応をしているのでしょうか。ネットへの書き込みを見てみると、泣き寝入りしている例も多くありますが、中には労働基準監督署(以下、「労基署」)に相談するという例もあるようです。
労基署は、何か労働関係のトラブルがあったときに相談へ行く場所といった印象がありますが、具体的に労基署がどのような相談に、どのように応じているか知っているという方は少ないと思われます。そこで本記事では、仮に労基署に残業代請求の相談をした場合、どのような対応をしてくれるのか詳しく説明していきます。
【目次】
1. 労基署とは
労基署は、会社(使用者)と労働者(従業員)との間のトラブルの原因が、会社(使用者)側の労働基準法や労働安全衛生法等の違反などにある場合に、会社に対して違反内容の改善を求める是正勧告や指導をすることで、労働関係のトラブルの解決を図るところです。
相談窓口としては、「総合労働相談コーナー」にて、相談を受け付けており、ここでは、相談員は相談者の話を聞きながら、どのような手続きを行うのが適切であるか、助言を行うなどしています。
2. 労基署が受け付けてくれる相談の内容と相談の仕方
労基署の総合相談コーナーでは、残業代の未払い等の賃金に関する相談のほか、解雇、雇い止め、配置転換、いじめやパワハラ等、労働問題に関するあらゆる分野について幅広く、相談を受け付けています。
相談の仕方としては、まずは自分の勤務先を管轄する(担当する)労基署を探して、それからその労基署に相談に行くのがよいでしょう。仮に、勤務先の管轄ではない労基署に相談に行ったとしても、対応はしてもらえますが、実際にその相談に関してアクションを取ってくれるのは、その勤務先の地域を管轄する労基署なので、最初からそこへ相談に行った方が効率がよいでしょう。
自分の会社の地域を管轄する労基署がどこなのか分からない場合には、最寄りの労基署等に電話などで問い合わせてみるか、あるいは各都道県労働局のウェブサイトを確認することで知ることが出来ます。
ここで、先ほど労基署は幅広く相談を受け付けていると書きましたが、実は相談は受け付けてくれても、ほとんど是正指導をしてくれないものもあります。例としては、その勤務先が違法なことをしているという証拠が示せない場合や、セクハラ・パワハラ等の相談に関してが挙げられます。しかし、労基署が相談を受け付けてくれないからといって、諦める必要はありません。弁護士なら、証拠が手元にない場合の法律相談やハラスメント関係の相談も快く受け付けてくれますので、そういった場合は弁護士に相談してみるとよいでしょう。
3. どんなときに労基署は是正勧告や指導をしてくれるのか
では、労基署に対して、勤務中の会社に関する労働関係の相談をしたとき、どのような対応が取られるのかここでは説明します。
労基署は、相談者から相談を受け付けると、実際にその会社に対して聞き取りや、現場確認、調査を行います。また、その際に帳簿や書類を提出させることもあります。これらは全て抜き打ちで行われ、サービス残業の調査は夜間に行われます。
そして、一連の調査によってその会社に違法な状態が認められた場合、それを改善するように求める「是正勧告」を行います。是正勧告の際には、「是正勧告書」という①違反内容と②是正期日(是正をしなければならない期限)が書かれた紙を渡します。是正勧告をされたら、その会社は違反内容を期日までに是正し、「是正報告書」を提出する必要があります。この是正勧告書には強制力はありませんが、会社が労基署の勧告に従わず、放置をしていた場合、悪質であると判断され送検されることもあります。
また、違法とまでは言えないものの、不適切であるとされるような労務管理を行っている際には、「指導票」を渡す場合もありますが、特に何もしないといった場合もあります。
3-1. 労基署に残業代請求の相談をしたら
労基署に未払い残業代の相談をすると、先ほど説明した流れと同様、労基署は相談者の勤務先について、聞き取りや調査をします。そして、その調査で、勤務先に違法状態が認められたとき(この場合は労基法37条違反)には勤務先に是正勧告をしてくれるということになります。
ここまで説明を読んで、お分かりの方もいるかと思いますが、労基署は調査の結果、違法状態と認められた場合にのみ、指導をしてくれます。つまり、その調査の際に「証拠」が見つからなければ是正勧告はしてくれないのです。
悪質な会社が、この調査の際に証拠が見つからないよう隠ぺいしたことによって、せっかく相談をしたけれど改善されなかったということはたくさんあります。しかし、そこで泣き寝入りをするのではなく、そういった場合は弁護士に依頼するのがいいでしょう。弁護士なら、そんなときも親身に相談に乗ってくれます。
また、仮に労基署に相談をして、調査や聞き取りの結果、違法状態が認められたとします。そのとき、労基署は是正勧告をしてくれますが、この是正勧告は会社丸ごとに対してなされるため、大ごとになってしまうリスクがあります。また、特に内容が悪質だと判断された場合には、送検されることもあります。それに対して、弁護士に依頼する残業代請求は、内密に進められる場合が多いので、公になる心配がありません。公になることは避けたいといった方にとっては、そういった観点からも、弁護士への依頼はお勧めです。
4. 残業代の計算や仲介役労基署はしてくれない
労基署は労基法や労働安全衛生法等の違反を取り締まるという目的で設置された行政機関です。したがって、労基署に残業代の未払い(労基法37条違反)について相談をした場合、労基署はその使用者に対して聞き取りや調査をし、違反が認められた際には、使用者に対して違反内容の是正を指導してくれます。
しかし、あくまで労基署の役割は、労働法違反をした使用者がその違法状態を改めるように、働きかけることであり、一個人(相談者)とその使用者の仲介役をすることでは無いので、相談者の残業代がいくらであるのかについて、具体的な計算や判断まではしてくれません。
しかし、残業代がいくらなのか計算をするには、基礎賃金の割り出しや、就業規則の内容の確認、更には正しい残業時間が何時間であるかなど、いくつか注意するべき法的な判断があります。それらに配慮しながら、法律分野に関して知識のない方が、正しい残業代を導くことは難しいでしょう。
では、どうすればいいかというと、残業代計算に関して、正しく判断ができる専門家として弁護士がいますので、確実に残業代の請求を行いたい場合には、弁護士に相談するのが良いでしょう。
5. 残業代を自動で計算してくれるアプリとは
これから残業代請求をしようと考えている場合、あるいはいずれしようと考えている際に、残業代が現時点でおおよそどれくらいあるのか知りたいといった場合があるでしょう。また、ご自身で残業代を請求するのではなく、弁護士に依頼をしようと考えていても、まずは残業代がいくらあるのかについて、概算を出してから、弁護士に相談したいといった場合や、請求の際に役立つ証拠が欲しいといったこともあるかと思います 。
実は、そういった場合に便利な、GPS(位置情報)を利用して残業時間を測定し、残業代をほぼ正確に自動で計算してくれる「ザンレコ」という無料のアプリが配信されています。日本リーガルネットワーク社のこのアプリは、残業代を自動で計算してくれるというだけではなく、実際に残業代請求をする際に証拠としても役立つという利点もあります。しかも、「ザンレコ」は弁護士が開発したアプリなので信頼できます。残業代を請求するにあたって、役に立つことは間違いないので、インストールしておくとよいでしょう。
6. 残業代が貰えないとき労基署か弁護士どちらに相談する?
残業代を払ってもらえない場合、労基署と弁護士のどちらに相談したほうがよいのか、結論としましては、弁護士への依頼をお勧めします。
これまで説明してきたように、労基署は労働基準法による労働者の保護を促進するといった目的から設置されているため、明確な法令違反や、不適切な労務管理を行っている使用者に対しては、その是正を求めてくれるという期待はできます。また、費用面において、労基署への相談は無料なので、うまく残業代を支払ってもらえた場合には、そういった面で、労基署へ相談して良かったと言えるでしょう。しかし、労基署への相談は、「労基署がそもそも行政機関であり、司法機関のような紛争解決機関とは異なるため、限界がある」ということから問題が解決しないといった場合も大いに考えられる ので、そのリスクを念頭に置いておく必要があります。
他方、弁護士に相談した場合は、費用こそ多少かかってしまいますが、労基署とは異なり、相談者個人の残業代回収のために努めてくれます。
加えて、弁護士費用はかかりますが、弁護士に依頼した場合、労基署に相談する場合と比較して、残業代が回収できる可能性が高まります。特に、最初の法律相談で、弁護士が「残業代を回収できる可能性が非常に高い」と判断したようなケースでは、残業代をほぼ確実に回収できるため、弁護士費用を払ってもマイナスではないでしょう。
また、弁護士は、残業代の適切な計算や、使用者に対し残業代を支払うように請求も行ってくれます。仮に、使用者が請求に応じない場合でも、証拠や法的根拠を適切に提示して交渉を行い、残業代を払ってもらうことが出来ます。仮に交渉での解決が難しい場合でも、労働審判という短期間で終わる手続きや最終的には裁判をするなどして、しっかり残業代を払ってもらうことができます。。
このようなことから、個別の労働者が正確な労働時間に基づき、残業代を請求したいという場合には、弁護士への相談がより適切であると考えられるでしょう。
また、弁護士への相談は、残業代請求以外でも、不当解雇やその他労働問題でお悩みの方にもおすすめです。当社では、労働問題に強い弁護士を多数紹介しているので、お悩みの方は是非、相談してみるとよいでしょう。