2017/10/30
なぜ電通はたった罰金50万円なのか?違法な残業命令・残業代不払いに対する労基法上の罰則・ペナルティまとめ(弁護士が執筆)
執筆者 編集部弁護士今月6日に、東京簡易裁判所で株式会社電通に対して社員に違法残業をさせたことを理由に罰金50万円の判決が言い渡されました。
この判決について「違法残業のせいで過労死も出たのに、なぜたった罰金50万円なのか」と疑問に思われた方も多いかと思います。
そこで、なぜ電通への判決が罰金50万円となったのかと、その前提となる違法な残業命令・残業代不払いに対する労働基準法(労基法)上の罰則やペナルティについてまとめました。
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労基法上の罰則・ペナルティ
違法な残業命令・残業代不払いを行った個人(経営者や管理職)とその勤務先の会社に対して、以下の罰則・ペナルティがあります。
1. 個人(経営者や管理職等)に対する罰則・ペナルティ
⑴ 刑事責任(労基法上の罰則)
経営者や管理職などが36協定もないのに従業員を残業させた場合、または36協定上の上限時間を超えて従業員を残業させた場合には、そのような残業命令は労基法32条違反になります。
また、経営者などが従業員を残業させておきながら残業代を払わなかった場合には、その行為は労基法37条違反になります。(適法な裁量労働制等を理由に残業代を支払う義務がない例外的な場合は除きます。)
そして、上記の労基法違反に対しては、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が罰則として定められています(労基法119条1号)。
そして、複数の従業員に対して上記の罪を犯した場合や、労基法32条違反と労基法37条違反を同時に犯した場合には、併合罪(刑法45条)となり、懲役なら最大で1.5倍、罰金なら上限額の合計の刑が科される可能性があります。
※ 36協定がないのに1日8時間超かつ1週間に40時間を超えて従業員を働かせた場合等には、労基法32条1項違反と32条2項違反の併合罪となります(平成22年12月20日最高裁判所第三小法廷決定)。
⑵ 民事責任
経営者や管理職などが違法な残業を命じた結果、従業員が身体・精神の病気になった場合等には、経営者や管理職などは民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。
また、個人事業主が従業員を残業させた場合には、当然ながら残業代の支払義務があります。
⑶ 社内における責任
会社が名実ともに違法な残業命令を禁止しているにもかかわらず、管理職などが会社に黙って部下を違法に残業出せていた場合等には、その管理職は会社から懲戒処分を受ける可能性もあります。
2. 会社に対する罰則・ペナルティ
⑴ 刑事責任(労基法上の罰則)
上記の1⑴と同様、36協定がないのに従業員を残業させた場合、または36協定上の上限時間を超えて従業員を残業させた場合には、そのような残業命令は労基法32条違反になります。
また、従業員を残業させておきながら残業代を払わなかった場合には、その行為は労基法37条違反になります。(適法な裁量労働制等を理由に残業代を支払う義務がない例外的な場合は除きます。)
その場合には、その勤務先の会社(事業主)に対しては、「30万円以下の罰金」が罰則として定められています(労基法119条1号、121条)。
そして、複数の従業員に対して上記の罪を犯した場合や、労基法32条違反と労基法37条違反を同時に犯した場合には、併合罪(刑法45条)となり、上限額の合計までの罰金が科される可能性があります。
※ 36協定がないのに1日8時間超かつ1週間に40時間を超えて従業員を働かせた場合等には、労基法32条1項違反と32条2項違反の併合罪となります(平成22年12月20日最高裁判所第三小法廷決定)。
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⑵ 労基署からのペナルティ等
労基署(厚労省)では労基法違反に対する監督を強化しており、大企業の複数の事業所で違法な長時間労働等が認められた場合(※)には、労基署から是正指導をするとともに、企業名を公表する方針を示しています。
(実際に厚労省から公表されている事例については、残業代コラムの「厚労省が公表したブラックリスト!?労基法等違反の公表事例」の記事をご覧ください)
※ 具体的には、違法な長時間労働(労基法違反の月80時間超の残業を10人以上又は25%以上の従業員にさせている)や、過労死・過労自殺等での労災支給(月80時間超の残業があり、労基法違反や長時間労働で指導を受けている場合に限る)が、1年間で2つ以上の事業所で認められた場合など
⑶ 民事責任
違法な残業を命じた結果、従業員が身体・精神の病気になった場合等には、会社も民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。
また、従業員を残業させた場合には、当然ながら残業代の支払義務があります。
電通に対する罰金50万円の判決について
電通では、従業員に対して労働基準法32条に違反する残業命令が行われていたようです。
そのため、上記のとおり、管理職個人と会社としての電通に刑事責任が発生しますが、管理職個人については、東京地検は、過去の同種の事件の処分内容を踏まえて処罰を求めるほどの悪質性は認められないと判断して起訴猶予としたようです。
※ 起訴猶予(刑事訴訟法249条)とは、犯罪の事実は認められるが、情状等を考慮して刑事処分を科す必要がないと検察官が判断して不起訴とする処分をいいます。
他方で、会社としての電通に対しては、罰金50万円の判決となりました。
起訴された内容は4人の従業員に対する違法な残業命令であったようなので、上記のとおり、併合罪となり、罰金の上限額は120万円(30万円×4)であったと考えられますが、裁判官は、電通が既に社会的制裁を受けたこと、再発防止の誓約、過去の同種の事件との均衡を考慮して、罰金50万円としたようです。
※ 弊社の調査で見つかった過去の労基法違反の刑事事件では、会社に対する罰金の額は50万円と60万円でした(大阪地判平成20年1月25日、京都地判平成18年11月15日)。
※ 会社としての電通について、東京地検は公判(正式な裁判)を開かずに罰金を科すことを求める略式起訴を行いましたが、東京簡裁は略式命令(公判を開かずに書面の審理で罰金等を命じること)は不相当と判断して公判を行ったようです。
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